“男性がトイレまでついてくる”“授乳をじっと見られる”災害避難所の性被害は「大したことじゃない」のか?

国内 社会

  • ブックマーク

災害の避難所でも起こっている女性差別

 10月12日、未曽有の規模の台風19号が日本列島を席巻した。今回の台風も大きな被害を出し、全国で88名の死者が出た(10月25日現在)。

 被災して避難所での生活を余儀なくされた際、そこで起きる問題についても、男女では大きな隔たりがある。

 避難所での自治は男性が担うことが多く、女性固有の事情に配慮が行き届きにくい。また、日本は自然災害大国であるにもかかわらず、令和の現在にいたって未だ体育館に雑魚寝の避難所が多くを占める。プライバシーのない避難所生活では、女性が性犯罪に巻き込まれることも少なくない。

 2016年に熊本地震が起きた際、熊本市男女共同参画センター「はあもにい」は、避難生活を送る被災者向けに性犯罪に関するチラシを制作している。そこには阪神淡路大震災での性被害の事例が挙げられた。

〈段ボールで更衣室を作ったら上から覗かれた(13~16歳)〉
〈避難所で成人男性からキスしてと言われた。トイレまでついてくる(6~12歳)〉
〈授乳しているのを男性にじっと見られる(30代女性)〉

 それに対してチラシでは、多くのスペースを割いて女性たちに自衛するよう訴えている。

〈自分を大切にしてください〉
〈単独行動はしないようにしましょう〉
〈見ないふり・知らないふりをせず助け合いましょう〉

 加害者に対する牽制の文言は、〈性的な嫌がらせやいたずらなど尊厳を傷つける行為も犯罪です〉という1点だけだ。

 被災者が等しく大変な状況でありながら、女性はさらに性的な危険にも晒される。そしてその危険に対する具体的な対処法は、本人による自衛しかないとされるのだ。

 上記のチラシには当然、悪意は微塵もないだろう。しかし加害者に対する強い牽制や威圧も、またない。自衛のみを促して加害者側への警告に欠けるこのようなチラシは、「性犯罪が起きるのは仕方ありません。あなたが自衛しなければ被害に遭っても仕方ないですよ」というメッセージを多分に含む。

 悪意なく発信されるそのメッセージは、女性の人権や尊厳が男性のそれよりも軽視され差別されていることを言外に含んで、読む者に届く。

 実際に、そういった差別を無意識に内面化してしまった女性が、「(男性が)若いんだから仕方ないね」と、見て見ぬふりをして助けてくれなかったという報告もあるほどだ。

 さて、しかしながら、前述のツイートの理屈にこの件を当てはめるならば、「この程度のことは女性器切除や性奴隷や酸攻撃に比べれば大したことがないので、黙っているべき」ということになる。

 着替えを覗かれたところで女性器を切除されるような肉体的被害はないし、トイレまでついて来られたからといって、いきなり性奴隷にされたわけではない。授乳をまじまじと見つめられた程度のことは、酸で顔をめちゃくちゃにされるよりは些末なことだ。広い世界にはもっともっと凄惨な被害があるのだから、避難所生活でのセクハラ程度のことは、被害だと訴えるに値しない。その程度のことで警察や行政の手を煩わせると、もっと重大な事件に割くリソースが減ってしまう。黙って耐えるべきだ。

 かのツイートには1万6千のいいねがついている(10月28日現在)が、ツイートをした彼や共感や賛同を示すひとたちは、紛争や戦争で死んでいる者がいるのだから、無灯火の自転車に轢かれそうになったからといってガタガタ言うな、と言われても平気なのだろうか? あるいは、貧困で毎年何万人も死んでいるのだから、ブラック企業で残業代が出ないくらいで文句を言うなと言われて、その通りだと感じるのだろうか?

「建物の窓が割れているのを放置しておくと、防犯に対して無関心だというサインになり、やがてすべての窓が破られる」というのは、有名なジョージ・ケリングの割れ窓理論だ。

 この理論の通り、軽微な女性差別を見過ごすことが常態化した現在の日本社会では、薄着の女性は見知らぬ男性からジロジロ見られてもしょうがないとされているし、男性とふたりで酒を飲んで酔っぱらったら、セックスに合意したものと見なされてしまう。ナンパに対して無視を決め込むと「調子に乗るなよ、ブス」と言われてしまうので、「せっかくのお誘いですが、今日は時間がないので失礼します」と丁寧な言葉で断らなければならない。それらはすべて、ヒビが入って割れた窓だ。

 様々な性犯罪や女性への暴力事件を紐解いていけば、「触られたそうにしていたから」「酔って無防備な姿にムラムラしたから」「無視されて腹が立ったから」といった、割れて放置された窓を見て自分もやっていいのだ、と解釈した犯行理由を探し出すことは、それほど難しくないだろう。

 わずかな女性差別の発露を見逃し続けることは、やがて、盗撮や暴行やストーカーやレイプや殺人に発展していく。たかがポスターの性的誇張表現、たかがセクハラ……それらはすべて実害であり、より重大な被害と地続きなのだ。

次ページ:自分の感情を信じられない女性たち

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]