千葉台風連続被災で「憧れのプチ田舎暮らし」の夢が壊滅…移住者の明暗を分ける「物件選びの新基準」

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 東京から最も気軽に移り住める「プチ田舎暮らし」の候補地として、人気の高い千葉県中部。小さな中古戸建を譲り受けて都心から移住をして10年あまりの今秋、台風15号と19号の被災を受けることとなってしまった。そして、本記事の草稿を書き上がった直後にも、21号の被災が……。今後、これまでにない気象災害が増えると言われているなか、今回の出来事と田舎暮らしの候補地・物件選定を絡めて、移住者としての考えをまとめてみようと思う。

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大規模災害時には人口密集地が優先される

 まず僕の居住エリアは房総中央の台地にあり、地域を南北に蛇行する2級河川沿いに水田が広がり、それを小高い雑木林や杉林が囲む、「谷戸」と呼ばれる地形を特徴としている。エリアのほとんどは森林。住民は農家が中心だが高齢化と過疎が進み、面積ばかり広い町内の世帯数は80を割り込んでいる、典型的な農家集落だ。

 15号被災の当日は、停電で明けた。家屋が揺れっぱなしという未経験の強風の中、午前5時ごろには2階の出窓が割れ、ただ事ではないとは感じていたが、明けてみれば被害は想像以上だった。

 家の前を走る道路の信号は停止し、大渋滞が始まっている。未明から起きている近隣住民によれば、町内を走る市道のあちこちが杉の倒木によって自動車どころか歩いても進めない状況となっており、県道も倒木で1車線が塞がれる個所が複数。大渋滞はそのためだった。停電は町内全体どころか広い市内全域にわたるらしい。ただひとつあるコンビニエンスストアも開けられない状況で、顔見知りの店長が駐車場で途方に暮れていた。

 自宅の被災状況を確認する間もなく、携帯電話に消防団の参集連絡が入った。地域の若手は消防団に入団するケースが多く、僕のような移住者や先住者女性の実家への婿入りで入って来た男性も、地域との交流の目的もあって多くが消防団に参加している。強い台風が来襲した後などはこうして参集がかかるが、今回も動ける者は消防車などの資機材がある機庫に集まれと言う。

 が、付近はそもそも徒歩かスクーターか自転車でなければ機庫までたどり着くことができないありさま。僕の家からも最寄りのルートは完全に倒木でふさがっており、大きく迂回して機庫を目指した。結局、なんとかたどり着くことのできたのは数名。まずは県道まで出るための市道をふさぐ倒木を伐採、道を切り開きつつ県道にたどり着くと、やはり各所で渋滞を発生させている倒木をチェーンソーで切断して車線の確保作業に入ることにした。

 都市居住者には想像しづらいかもしれないが、農家が多いこのエリアでは、住民のほとんどが自宅にエンジン式のチェーンソーや混合ガソリンを所有している。消防団に支給されているチェーンソーは1台のみだが、地域の住民が自前のチェーンソーを持ち寄ってくれて、一抱え以上ある太い杉を20本は伐採しただろうか。休む間もない。

 太い幹は両側を2人で持てる70センチぐらいの丸太に刻んでから路肩に投げるのだが、若手(といっても30~40代)の消防団員よりも年季の入った高齢者のチェーンソーさばきが圧倒的に巧みで、余分な力をかけずに太い幹をすいすい切断していくことに、思わず感動した。

「東日本大震災クラスの大規模災害の時には人口密集地が優先され、このエリアに消防車や緊急車両は一台も来れないと考えてほしい」

 消防団に参加した初めの頃、年始に地域の団長訓示でそんなことを堂々と言われ、本当かよと思っていたが、まったくの本当だった。

 災害時には「自助・共助・公助」が求められるが、この地域に公助が来ることは期待せず、消防団員が地域の自助・共助の担い手となってほしいと言う。

 実際こんな被災を受けてみると、自分たちの通る道路は、自分たちで確保したほうが早いのだと理解できた。各エリアがそうせねば、そもそも公助がたどり着かないし、待っていたら、いつになるか分からないのだ。

 結局夕方に至るまで倒木処理に明け暮れたが、市の土木事務所の作業員も東京電力の作業車も来れない。車で10分ほど先(といっても距離は10kmほど先)に広がる住宅街の方を優先しているのだろう。自らの手で確保した県道に救急車が走るのを見て、達成感を感じながら自宅に戻った。

約1週間停電、携帯電波も届かない

 夕日の中で改めて確認すると、我が家もそれなりの被災であった。窓ガラスが1枚割れているのは分かっていたが、屋根の棟に張られた板金が何カ所か飛び、衛星放送のアンテナや雨どいも一部破損している。ベランダのテラスは何かが当たったのか大きく変形し、ポリカの波板も何枚か飛んでいた。

 最も心配なのは敷地内に杉の倒木がかかっていて、東京電力の引き込み線を押し切ってしまっていること。これは復旧が遅れるかもしれない。

 一日中チェーンソーを振り回して汗と泥まみれだが、この地域ではほとんどの世帯がそうであるように我が家も上水道ではなく井戸ポンプを使用しているため、電気が来なければ風呂も浴びれず、トイレとて流せない。

 だが、神奈川に住む先輩が井戸ポンプを動かす容量の発電機を貸してくれると申し出てくれたので、自分たちの手で確保した県道を通って高速道路に出て、発電機を引き上げにいくことに。確保した発電機は非インバーター式の2300w。帰宅と同時に井戸ポンプが起動することを確認すると、すぐに同じ商品をAmazonで注文した。即日配達だという。

 非インバーター式の発電機は電圧が不安定なために精密機器に使えないし、燃料の温存もあるから、発電機はポンプを動かすときだけの使用とし、室内の電気や携帯の充電や扇風機などは自動車のバッテリーから正弦波電力の取れる「AC/DCインバーター」から延長ケーブルを室内に引き込んで確保。千wまで使えるこの「AC/DCインバーター」は東日本大震災の後の計画停電時に確保していたものだったが、優れものだ。プロパンガスなので、ガスコンロは使えるが、ただでさえ蒸し暑い夜に室内調理は暖房そのものなので、キャンプ用のバーナーを使って庭で夕食を作った。

 スマートフォンや、スマホのテザリングを使ってパソコンが使えたのはこの夜まで。携帯の基地局は停電時に非常用バッテリーで駆動するが、その容量が24時間程度ということで、翌日から電気に加えて通信も途絶することとなった。

 結局停電も携帯電波も1週間近く回復しなかったが、被災3日目には開通した道路を使ってAmazonで頼んだ発電機も拡充(不要不急だったと後悔はしているが)。その間何よりも面倒だったのは「無事かどうか」の確認をしてくる友人や、被災していることを理解してくれない仕事先に返事を返すために「通信の復旧している場所まで行き来すること」で、壊れたものの片付けや冷蔵庫の中の大掃除やらに奔走しているうちに被災生活は終わった。家屋の補修には80万円以上がかかるが、保険でカバーできそうだ。

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