日清、サントリー、ロート製薬… 企業がCMに「Vtuber」を起用する本当の理由

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YouTubeで流れる“Vtuber風”の広告が叩かれるワケ

 企業にとって、Vtuberはイメージアップの効果だけではなく、スケジュール面と演出面でのメリットもある。

「Vtuberにもよるのですが、モーションキャプチャ(現実の人物や物体の動きをデジタル的に記録する技術)を担当する“中の人”が固定化されていなければ、代打を用意しやすい。生身の芸能人よりスケジュールを確保しやすいというメリットがあります。“バーチャル”なので人間にはできない表現方法も使えますし、中の人次第では楽器演奏や難しいダンスなども可能。演出の幅が広がるため作品の自由度を上げやすく、より斬新で驚きのあるCMを作ることができるのです」

 他に自社でオリジナルのVtuberを開発する企業の一例としては、サントリーの「燦鳥ノム(さんとりのむ)」やロート製薬の「根羽清ココロ(ねばせいこころ)」などがある。いずれにせよ、こうした企業のオリジナルVtuberは、並々ならぬ努力の末に開発されているようだ。

「無名のタレントをゼロから育てていくようなものですから、企業は相当の熱意と細かな市場調査が必要です。サントリーさんやロート製薬さんが自社のVtuberを生み出した根底には、『自社のVtuberを通じて消費者ともっと仲良くなりたい…!』という熱い思いがあり、どんな企画がVtuber界隈でウケているかといったリサーチも徹底しています。ファンからは『Vtuberファンが社内にいるに違いない』と噂されるほど、これらの企業は研究しています」

 もちろん反対に、Vtuberを使う明確な意図がなければ、失敗に終わるケースもある。実際に最近YouTubeでは、“Vtuber風”のキャラクターが登場するCMに対して、批判的な意見も目立ってきている。

 具体的に言えば、Vtuber風のキャラクターが、歯の黄ばみや、毛深い体毛などのコンプレックスを吐露し、「でもこの商品を使ったら改善して、私生活でも良いことが沢山起こりました!」と成功体験を語るCMだ。たとえば、メガネと白Tシャツが特徴のVtuber風キャラ「社会人1年目のKENTY」が宣伝する除毛クリームの広告などである。それらのCMは、頻出するため視聴者の記憶には残っているが、決して評判は良くない。その理由について武藤氏は次のように分析する。

「CMを作る際に重要なのは、まず“どんなメッセージを伝えたいか”、そのために“どんな手段を使うか”を考えることです。前述の動画に限らず、広告なので『自社商品を売りたい!』『目立ちたい!』と企業が考えるのは当然です。しかし、Vtuber風のキャラクター起用の必然性や企業の熱量といったものを視聴者は敏感に察知します。そこに無理やズレが生じると、嫌悪感を与えてしまう可能性もあるのです」 

 売らんかな精神の強い広告や営業を嫌がる消費者は少なくない。Vtuberを生かすも殺すも、結局のところ企業次第ということだろう。

取材・文/鶉野珠子(清談社)

2019年10月29日掲載

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