巨人、日本シリーズ全敗… “90年、対西武4連敗の屈辱”とはあまりに異なる「敗北の意味」

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 今年もまたパ・リーグが日本シリーズで“底力”を見せつけた。パ・リーグ二位からクライマックスシリーズ(CS)を勝ち上がったソフトバンクが、セ・リーグ覇者の巨人を一蹴して4連勝で日本一を一気に勝ち取った。 無残にも、一敗地に塗れた巨人について、巨人OBはどう見たのだろうか。巨人の一軍打撃コーチなどをつとめた経験がある、野球評論家の篠塚和典氏に、巨人の戦いぶりを振り返ってもらった

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 篠塚氏がまずポイントに挙げたのは、第1戦の流れだ。巨人は。2回表、今季限りでユニフォームを脱ぐ阿部慎之助の先制ソロで、幸先がよいスタートを切ったかと思われたが、その直後、グラシアルの2ランで試合をひっくり返され、結局7−2で敗北を喫した。

「巨人がシリーズの流れを掴むかと思った。チーム内には『引退する阿部の花道を飾ろう』という雰囲気があったなかで、いきなり阿部が打った。本来、巨人は勢いに乗って行きたかったが、ソフトバンクの先発・千賀滉大はさすがの投球で、巨人の攻撃を最低限に抑え込んだ。これが「短期決戦の勝負のアヤ」というのかな」

 セ・リーグを制した強力打線は、ソフトバンクの投手陣の前に沈黙してしまう。阪神とのCSファイナルでは、4試合21得点と効率的に機能した巨人打線。日本シリーズ4試合で10得点のみと得点力を大きく低下させた。特に、主力の坂本勇人と丸佳浩が不振を極めて、チームの歯車を狂わせたことが大きな打撃になった。

「巨人打線は、全体的に調整がうまく行ってないように感じた。CSでは、あれだけ打線がうまくつながっていたのに、まるで別のチームのようだった。もちろん、ソフトバンクが巨人打線を研究したこともあるが、坂本は初戦からインコースを意識させられる配球を見せられた。こういう攻め方は、シーズン中にもやられたはずだが、それに対応する前に、日本シリーズが終わってしまった。丸佳浩もまた、シーズンを通じて素晴らしい成績を残しているが、日本シリーズでは打てなかった。やはり、(引き分けがない限り)7試合しかない日本シリーズというのは難しい。選手からすれば、少し頭が混乱するだけで、あっという間に時間が経ってしまう」

 調子が良かった印象がある亀井善行でさえ、第1、2戦は無安打。第3戦の先頭打者を含む2打席連続ホームランで気を吐いたが、勝利には結びつかなかった。さらに、主砲・岡本和真は第4戦でライトスタンドに飛び込むアーチを放つも、時すでに遅く、ソフトバンクに傾いたシリーズの流れを変えられなかった。巨人は一度も流れを掴むことなく、ソフトバンクに押し切られてしまった。

「もちろん、打線の不調だけが原因で負けたわけではない。ソフトバンクとの“選手層の違い”を感じた。短期決戦、かつ日本一を決める大舞台で、巨人は大事な場面で若手を使わざるを得なかった。もちろん、素晴らしい素材であることは間違いない。とはいえ、若手に経験に積ませるとはいえ、彼らには少し荷が重すぎる」

90年の4連敗との違い

 それを象徴する場面がある。第3戦では、中継ぎでルーキーの戸郷翔征を起用したが、自らのミスが絡んで失点し、敗戦投手になったほか、シリーズ敗退に後がない第4戦では、2年目の田中俊太をセカンド、同じく若林晃弘をサードで、それぞれスタメンで起用をしたものの、試合中盤で代打を告げられて交代した。将来性のある若手を育てたい原辰徳監督の意向は理解できるが、日本一をかけた重要な局面でそれが必要だったのかという疑問は残る。

「(今回と同じように)私も、1990年の日本シリーズで西武に4連敗した経験がある。当時の巨人はセ・リーグを圧倒的に制して、自信を持って西武に挑んだが、野球の質や細かさの違いを痛感した。しかし、(今回の4連敗での敗退は)当時とは、選手の感じ方が違うのではないだろうか」

 つまり、西武との戦いには勝機は十分あったが、力負けだった。今回のソフトバンクとの決戦は、チームの総合力に差がありすぎて、勝機をほとんど見出せなかった。同じ4連敗とはいえ、“意味”が全く異なるということだ。

「巨人はチームが変わりつつある過渡期にある。今回、若手にミスが出たが、これを良い経験にできれば『負けた意味』があると思う。彼らからすれば、本当に大きなものを得たはずだから、これをぜひ来季に生かしてほしい。日本シリーズに出場した選手を中心に育てていくのか、これまで以上に戦力補強を進めるのか。まずはシーズンオフの動きを注目していきたい」

 栄光の巨人軍にとって、90年の日本シリーズはいまだに語り継がれる“暗黒の歴史”である。ただ、こうした挫折や屈辱を糧にして、チームの伝統を築いてきた。若手の育成をより積極的に進めるか、これまでのように大型補強に邁進するのか……原監督は、来季に向けてどのように舵取りをしていくのだろうか。

週刊新潮WEB取材班

2019年10月26日掲載

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