台風19号・多摩川氾濫で唯一の死者 娘さんが語る「ペット4匹も父と一緒に死んでしまいました…」

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4匹のペットを抱えて…

 多摩川が荒れ狂った地域は広範囲に及んだ。にも拘(かかわ)らず、一体なぜ彼だけが死神の手に搦(から)め捕られてしまったのだろうか。

「4階に住んでいる男性が(12日の)18時頃に、『そろそろ危ないから、上の階に上がってきなさい』と言いに来てくれたんです。上の階に“猫仲間”の人がいたので、その人の部屋に身を寄せました」

 こう証言するのは、当該マンションの2階に住んでいる20代の女性だ。

「そうしたら、20時くらいに川から水が溢れてきて、ものの30分で1階が浸水しました」

 その1階に住んでいたのが亡くなった男性だった。浸水したのは1階のみ。改めて「土手沿いの1階」の危険性を思い知らされるが、彼が命を落としたのはそれだけが理由ではないようだ。

 同じマンションに住む40代の男性住民が後を受ける。

「私は17時頃に車で実家に避難しました。犬を飼っていて避難所に連れていくわけにもいかなかったので」

 亡くなった男性も白毛で雑種の犬とプードル、そしてうさぎ2匹を飼っていた。

 先の女性が続ける。

「うちのマンションはペット持ちが多いので、みんな避難所には行きませんでした。避難所がペットを受け入れてくれるか分かりませんし、避難所には犬猫アレルギーを持っている人がいるかもしれませんからね」

 4匹ものペットを抱えて、近隣住民や避難所のお世話になるわけにはいかない――。そんな「遠慮」が男性の死の一因となってしまったと、マンションの住民たちは見るのだった。

 他の被災地でも、同様の理由で避難所行きを諦めた人は多かったのではないか。

 防災システム研究所の山村武彦所長はこう勧める。

「最近は、小中学校のように校庭などのスペースがある避難所では、動物愛護団体やペットセンターの協力のもとでペットを受け入れてくれるところもあります。したがって、遠慮せずにまずはペットを連れて逃げるのが賢明でしょう」

 冒頭に登場した被害者の娘さんが再び言う。

「ペット4匹も父と一緒に死んでしまいました……」

 愛犬家が、犬の存在ゆえに命を落とす。何とも皮肉な「川崎マンション」の悲劇である。

週刊新潮 2019年10月24日号掲載

特集「『狂乱台風』 生と死の人間学」より

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