阪神「近本光司」は“外れ外れ1位”、高校時代は甲子園と無縁、大阪ガスで才能が開花

スポーツ 野球

  • ブックマーク

Advertisement

矢野監督が才能を評価

 結局、大学時代は4年間でリーグ戦5シーズン、計30試合に出場し、122打数43安打(うち二塁打2本、三塁打3本、本塁打2本)で打率3割5分2厘、16打点、13盗塁をマーク。だが、プロからは声がかからず、社会人野球の強豪・大阪ガスに進むことに。そしてこの大阪ガスでついに近本の才能が全開花することとなるのである。

 ルーキーながら堂々とレギュラーの座を勝ち取ると、都市対抗野球の2次予選で2試合連発の右越え弾を放つなどチームを牽引。予選で敗退したものの、この活躍が認められ、三菱重工神戸・高砂の補強選手に選ばれたのだった。

 その初戦となるNTT東日本戦では2番・センターで先発出場を果たすと5打数3安打1打点1盗塁をマーク。チームは5-7で惜敗したものの、のちにこの大会の優勝チームとなる相手を脅かす大活躍を見せたのであった。

 翌18年、近本の打棒はさらに進化することとなる。4月に開催されたJABA岡山大会(優勝チームは毎年秋に行われる社会人野球日本選手権への出場権を得ることができる)で18打数8安打、打率4割4分4厘をマークし、首位打者を獲得。同時にチームも優勝に導く大活躍を見せたのである。

 その打棒の勢いは衰えることなくさらに加速。都市対抗野球予選では全5試合で22打数9安打(うち、二塁打三塁打本塁打が各1本ずつ)、打率4割9厘を記録したほか、打点8、盗塁2と大暴れし、チームを本大会へと牽引。

 そして5番に座った本選で、近本にとってのアマチュア野球人生において最大のクライマックスが訪れることに。初戦からそのバットは全開で、信越硬式野球クラブ戦と続く新日鉄住金かずさマジック戦では、ともに5打数3安打1打点と大暴れ。以降、準々決勝のNTT東日本戦でも4打数2安打1打点、準決勝のJR東日本戦では3打数2安打1打点、決勝戦の三菱重工神戸・高砂戦で4打数1安打1打点。なんと計5試合で21打数11安打(うち、二塁打2本、本塁打1本)5打点を記録し、脅威の打率5割2分4厘をマーク。チームを見事優勝に導いたのである。

 その中でも特に圧巻だったプレーは、まず2回戦のかずさマジック戦だろう。3-4とリードされた4回表の第2打席でセンター前の打球をツーベースにする駿足ぶりを発揮し、チームの同点劇を演出したかと思えば、続く5回表の第3打席では2死一、三塁のチャンスからまたも駿足を飛ばし、三塁内野安打で決勝点となる1点をもぎ取ったのである。

 また、準決勝のJR東日本戦では2本の長打を放っているが、そのうちの1本は先頭打者で迎えた8回裏の打席での値千金の一打となった。相手投手の投げた外角への145キロ直球をジャストミートし、レフトスタンドへ飛び込む決勝ソロ本塁打となったからだ。

 結果的にこの大会で近本が放った全11安打はすべてセンターから左側の逆方向へのものとなったほか(内野安打3本、単打5本、長打3本)、持ち前の総力を活かし盗塁も4つマーク。見事に首位打者に輝くとともに優勝の立役者として大会MVPの証しである“橋戸賞”を獲得することとなったのである。

 そしてこの大会での大活躍で,この年の秋のドラフトにおいて一躍、上位指名の有力候補野手として注目されることとなったのだ。

 中でも近本の才能を高く評価していたのが、このドラフトの直前に阪神の新監督に就任した矢野燿大(50)であった。昨シーズン、阪神の2軍監督を務めていた矢野は、ドラフトの約1カ月前に近本のいた大阪ガスと練習試合で対戦。「阪神でいうなら赤星のようなタイプだが、その赤星の身体も打撃もひと回り大きくしたようなイメージ」と、その実力を自ら体感していた。これが大きかったと言えよう。

 阪神は藤原恭大と辰己凉介という外野手2人を続けてクジで外したものの、初志貫徹で外野手を指名し続けた。そして3度目の正直で近本を単独指名。これが結果的に功を奏した。

 プロ1年目でセ・リーグの新人安打記録を更新し、さらに盗塁王も獲得した近本。そんな近本と今年のセ・リーグ新人王を争う双璧を見られるのが、高卒のプロ2年目で36本塁打&96打点をマークした東京ヤクルトの村上宗隆(19)だ。

 だが、今シーズン終始最下位に沈んでいた東京ヤクルトに対し、壮絶なAクラス争いを繰り広げ、見事に3位を勝ち取った阪神。その核弾頭として大活躍をみせた近本のほうに、やや軍配が上がるような気がする。

上杉純也

週刊新潮WEB取材班

2019年10月19日掲載

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。