神戸「教員イジメ」 主犯格の女教師を生んだ教育委員会と学校の“ズブズブな関係”

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ズブズブベッタリ

 神戸市の教育現場では昨年(2018年)、“イジメ隠ぺい”が問題になったばかり。2016年に市立中学校の女子生徒が自殺し、イジメの内容を生徒たちから聞き取った学校の調査メモが、遺族に隠されていた一件である。この時は、神戸市の教育委員会の「首席指導主事」という管理職の人間が、校長に「腹をくくって下さい」と隠ぺいを主導していたことが明らかになっている。メモの内容を遺族に知られることを恐れての行為だというが、教育委員会の指導主事は、本来、校長を監督する立場の人間である。

 教育委員会と言うと、教育現場を管理・指導するイメージがあるのかもしれないが、現実には校長サイドと“ズブズブベッタリ”な関係であることが少なくない。神戸市教委は、その典型例の一つと言っても過言ではないのだ。

 教育委員会の中核を担う主事職には前述の「指導主事」のほか「人事主事」などの役職がある。しかし、神戸市の場合、教育委員会への“入り方”で、明確な住み分けがなされている。総務部などの部署には、神戸市の職員採用試験を経た「行政職員」が中心に配置される。一方、学校教育の計画や指導、教職員の研修業務を担う学校教育部は、小中学校の教頭を経験した上で教育委員会に入る「教員系」の職員がほとんどを占めている。

 学校現場を監督するべき教育委員会に、いずれ校長として現場に戻る職員たちが数多くいると、どういうことが起きるか。教育委員会の職員が指導する相手の校長が、過去に教育委員会に勤務していた先輩や上司であることがよくある。そのため、教育委員会に学校現場でのイジメや体罰等の相談が持ち込まれても、校長の意向を勝手に忖度するなどして、問題が矮小化される、あるいは「無かった」ことにされてしまうのだ。私が“ズブズブベッタリ”と書いた理由も、ここにある。この構造によって「無かった」ことにされたケースの典型が、昨年、発覚したメモ隠ぺい問題である。

 先にも触れたが、教頭職は主事として教育委員会に参加する。自治体によっては登用試験を経て選出される場合もあるが、神戸市の場合、教育委員会の人事担当部署による“指名制”だ。教育委員会が各校の教頭を指名し、主事(管理職)に就かせ、そしてふたたび校長として現場に戻る……という流れである。

 かつて神戸市の教育委員会で指導主事を務めた元教員は、こう証言する。

「学校で何か不祥事が起きたりすると、校長ほかから無言の“圧力”がかかる。私の場合、指導主事になってからしばらくは、客観的に学校現場を見て指導できませんでした」

 また、元行政職員の関係者は、現役時代、教員系職員と対立することがしばしばあった、と振り返る。

「現場から報告があった体罰などの不祥事が、指導主事によって握り潰されてしまうことも珍しくありませんでした。私はそれを止めさせようとしたこともありますから、教育系の職員からは嫌われていましたね」

 誤解のないように言っておくと、“指名制”は神戸市に限った話ではない。教員系職員が特定の部署に集中する構造は、他の教育委員会でも見られる。神戸市だけが学校現場と教育委員会がズブズブの関係になっているわけではない。

 たとえば、2012年に起きた大阪市立桜宮高校の体罰自殺事件では、以前から体罰についての報告が大阪市の教育委員会に上がってはいた。ところが、大阪市教区委員会の指導主事が事情聴取のために学校を訪問したものの、桜宮高校の学校長が教育委員会での先輩だったため、事実関係がきちんと調査されることはなかった。結果、体罰は続き、生徒が自殺するという最悪の事態を招いた。

 2011年に起きた大津市中2イジメ自殺事件では、校長経験者だった当時の教育長が、「イジメはなかった」とする発言をマスコミの前で繰り返したのを覚えておられる方も多いだろう。こうした教員系職員と校長など管理職の“馴れあい”“癒着”による不祥事隠ぺいは、全国的にも数多く行われている。

 しかし、神戸市の場合、通称「神戸方式」と呼ばれる独自の人事方式が、教育委員会と学校の関係に更なる歪みを生じさせているのだ。これは教員本人の意向と学校長同士が調整のうえで、“お気に入りの教員”を自分が勤務する学校に呼び寄せることができるという制度だ。これでは、公正な教員人事が行われないうえに、呼び寄せられた側の教員は、学校長の庇護のもとで好き放題ができる。以前から疑問の声が挙がっていたこの制度は、このたび、2021年春をもって撤廃が決まった。

「神戸方式」は1960~70年ごろに始まったとされる。元教員で、神戸市教育委員会の指導部長を経て教育委員長も務めた森本純夫氏は、

「校長で話し合って人事を決めるというのは、良い面があった。だけど、時代に合わなくなったということかな……」

 と語るが、「神戸方式」が問題教員を生む温床となっていることは否定できない(なお、現在の制度では教育委員長の役職は廃止され教育長の肩書に一本化されている)。

 今回の東須磨小のイジメ首謀者となった女性教師は、まさにこの「神戸方式」で前々校長時代に赴任した教員だった。彼女は、学校内で「女帝」と呼ばれ、職員室内での発言力も大きかったと報じられている。校長の“お気に入り”として学校内での地位を固め、今日までやりたい放題やってきたことは容易に想像がつく。加えて、学校と教育委員会は“馴れ合い”のせいで、教員イジメを監視できるはずもなく、ズルズルと事態が深刻化していったということだろう。

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