「目が合った」だけでキレる人たちは何を考えているか

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「HIGH&LOW」や「クローズ」など、不良たちが闘う話は常に高い人気を誇っている。が、リアルな生活でそういう人たちと接したいかといえば、多くの人の本音はできるだけ敬遠したい、関わりたくない、というところだろう。

 リアルな不良やそのOBめいた人に「目が合った」だけで「ガン飛ばしてんのか」などと因縁をつけられた、あるいは睨み返された、そんな不快な思いをしたり、恐怖を味わったりした人は少なくない。

 そもそも普通の人は「目が合った」だけで他人を攻撃してくる神経がよくわからないだろう。

「誰かを攻撃するための材料を常に探しているだけなのでは」

 そんな解釈も成り立たなくはないが、専門家によれば必ずしもそうではなく、その行動原理にはもう少し別の背景もあるようだ。

 少年院で数百人の非行少年と面接を繰り返してきた精神科医の宮口幸治氏は、著書『ケーキの切れない非行少年たち』の中で、「非行少年の特徴5点セット+1」を挙げている。全部揃っていると非行少年になる、というわけではなく、彼らの特徴はこのいずれかの組み合わせになる、という。5+1の中味は次の通り(以下、引用はすべて同書より)。

(1)認知機能の弱さ……見たり聞いたり想像する力が弱い

(2)感情統制の弱さ……感情をコントロールするのが苦手。すぐにキレる

(3)融通の利かなさ……何でも思いつきでやってしまう。予想外のことに弱い

(4)不適切な自己評価……自分の問題点が分からない。自信があり過ぎる、なさ過ぎる

(5)対人スキルの乏しさ……人とのコミュニケーションが苦手

+1=身体的不器用さ……力加減ができない、身体の使い方が不器用

 具体的に身近な困った人の顔が浮かんだ方もいることだろう。

 このうち、「目が合っただけで因縁」の謎を解くカギになるのが(1)、(2)、(3)。実際に傷害事件のきっかけとして、「相手が睨んできたから」という理由はよく聞かれるのだという。その背景にあるのが(1)である。

「少年院生活の中でも他の少年に対して“あいつはいつも僕の顔を見てニヤニヤする”“睨んできた”という訴えを本当によく聞きました。しかし、実際に相手の少年に確かめてみると、その少年を見てニヤニヤしたり睨んだりしたことはなく、全く何のことか分からないといった状況でした。

 この背景には見る力の弱さがあります。相手の表情をしっかり見ることができないので、相手が睨んでいるように見えたり、馬鹿にされているように感じ取ったりして、勝手に被害感を募らせてしまうのです。

 また、聞く力が弱いことも同様に想定されます。聞く力が弱いと、誰かがブツブツと独り言を話しているだけでも“あいつが俺の悪口を言っている”といった誤解につながるからです」

 ここで言う「見る力」「聞く力」はいわゆる視力、聴力だけを指しているわけではないのはおわかりだろう。この力の欠如から誤解が生じ、(2)にあるような感情の統制ができなければ「何見てんだよ」となりやすい。

 では(3)の「融通の利かなさ」とはどういうことか。

「少年院の少年たちにとくに感じたことの一つに、『変に被害感が強い』ということがあります。少年院では毎日の日課が細かく決まっていて、日課に集団で向かう際に少年たちがすれ違うことが多いのですが、すれ違う際に少し目があっただけで、“あいつがにらんできた”、肩が触れてきただけで“ワザとやりやがった”、舌打ちされると“自分に向かってやってきた”、周りでヒソヒソ話をしていると“自分の悪口を言っている”といった訴えが実に多いのです。

 本当なのかもしれませんが、一方で、

“ひょっとして自分の勘違いじゃないか?”

“気のせいじゃないか?”

“ワザとじゃないのでは?”

 といった考えが全く出てこないのです。“絶対そうだ”と思い込んで修正が利かない、思考が硬い子がとても多いのです。

 こうしたささいな出来事に対する思い込みが積もり続けていくとどんどんと被害感が強まり、何かの拍子にいきなり少年同士で殴り合いになる、というような事態が起こります。これも融通の利かなさ、思考の硬さが原因となっているのです」

 これは何も「ガン飛ばした」問題だけに限った話ではないだろう。日常生活を送っていると、ときおり難癖としか思えないクレームをつけてきてキレる人や、どんなに説明をしても思い込みが強すぎて頑として聞かない人などに遭遇することがある。そのなかにはここで触れたような問題を抱えている人が含まれているのかもしれない。

『ケーキの切れない非行少年たち』によれば、認知機能や知能に問題がある「境界知能」の人は意外なほど多く、人口の十数パーセントにのぼる可能性があるという。

デイリー新潮編集部

2019年10月8日掲載

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