「反文在寅」数十万人デモに“普通の人”が参加 「米国に見捨てられる」恐怖が後押し

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「平和が来る」と浮かれた韓国人

――「何を今さら」といった記事ですね。

鈴置: まったく、「今さら」の指摘です。この「取引」は1年以上も前の2018年6月の第1回米朝首脳会談で決まっています。

 その結果、例年なら春に実施される実戦型の大規模の米韓合同演習は、今年からすべて中止されています。この記事を載せるのなら、どんなに遅くとも、今春に載せるべきでした。

 注目すべきは、普通の人に迎合してきた中央日報が、米国に見捨てられたと「ようやく」書き始めたことなのです。

 第1回米朝首脳会談で、多くの韓国人は「これで朝鮮半島に平和が来る」と浮かれた。『米韓同盟消滅』の第1章第2節でも書いていますが、会談直後には何と、64・7%の韓国人が「北朝鮮を信頼できる」と考えたのです。

 実際は、北朝鮮の非核化と米韓同盟廃止がセットになった――つまり、トランプ(Donald Trump)政権は韓国を見捨て、同盟を取引材料にしたのです。が、多くの韓国人は「北朝鮮との関係改善」に目がくらみ、韓国の安保に関わる重大な動きを見落としてしまったのです。

 普通の人の「浮かれた空気」を壊さないよう、中央日報は文在寅政権の南北融和政策に好意的だった。でも今、その中央日報が同盟の危機を訴え始めた――。この変化に注目すべきなのです。

2分間の首脳会談を「116分」

――米韓首脳会談がたった2分間だった事件もありました。それでも同盟に危機感を持たなかったのですか?

鈴置: 2019年4月11日にワシントンで開いた米韓首脳会談で、両大統領が2人だけで会ったのはたったの2分間でした。それも夫人同伴です(「米韓首脳会談で赤っ恥をかかされた韓国、文在寅の要求をトランプはことごとく拒否」参照)。

 はたから見る人は「米国はもう、韓国をまともな同盟国として扱っていないな」と考えます。緊密な関係にある国同士なら、トップだけで会って、機密情報や本音の意見を交換するのが普通です。

 でも人間は、見たくないものは見ないのです。韓国人もそうでした。中央日報は当時の記事で「2分間」にはちらりと触れました。が、青瓦台(大統領府)の発表通り「閣僚らを含めた全体会合を入れると116分に及んだ」と強調しました。

 見出しも、わざわざ「116分間の韓米首脳会談終了…文大統領『近く南北会談推進』」(4月12日、日本語版)とするなど、「2分間」が目立たないよう報じたのです。反・文在寅色の濃い朝鮮日報が「2分間」に焦点を当てたのとは対照的でした。

 しかし、ついに中央日報も半年後の9月23日の米韓首脳会談を報じるにあたっては「同盟の危機」を指摘せざるをえなくなりました。誰が見ても、韓国がまともな同盟国として扱われていないことが明白になったからです。

GSOMIA破棄を叱らなかったトランプ

 同紙の社説「『空っぽ』の韓米首脳会談で先が見えない韓米同盟」(9月25日、日本語版)はトランプ、文在寅両大統領の間で日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)の話題が一切出なかったことに「同盟の終焉」を見いだしました。以下です。

・11月には韓米同盟の重要な基盤であるGSOMIAが破棄される。GSOMIAが中断されれば韓米連合防衛体制に決定的な亀裂が生じる。それでも両首脳は今回の会談で同盟復元のための可視的な結果を出すことができなかった。GSOMIAは議題にもならなかった。

 この会談でトランプ大統領がGSOMIA破棄の翻意を促すだろうとの観測が韓国では一般的でした。日―米―韓の3国軍事協力の象徴でもある重要な協定だから、破棄を表明した韓国に翻意を促すであろう。そうなったら日本の輸出管理強化の問題を持ち出し、米国を通じて撤回させよう――との計算もあったようです。

――韓国はすっかり、計算が狂った……。

鈴置: 計算違いどころではありません。「米国が日韓GSOMIAを復元しようとしない」のは「日―米―韓の3国軍事協力を重要視しない」ことであり、ひいては「米韓同盟の存続に関心がない」ことを示唆します。

 トランプ大統領から「日本とのGSOMIAを続けよ」と叱られるのならまだよかった。叱られているうちはまだ「味方」扱いされているからです。叱られもしないのは見捨てられた証拠なのです。

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