西武は主力流出でも連覇、広島は丸が抜けてBクラス転落…なぜこうも差が付いたのか

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 西武の連覇で幕を閉じたパ・リーグのペナントレース。昨年オフにはエースの菊池雄星がポスティングシステムでメジャーへ移籍し、打点王の浅村栄斗も国内FAで楽天入りしたこともあって、シーズン前の評価は決して高いものではなかった。一方のセ・リーグは、4連覇を目指した広島が丸佳浩の巨人移籍もあり、まさかの4位に沈んだ。投打の主力が抜けながら連覇を達成した西武と、丸の穴を埋め切れなかった広島にはどこに差があったのか。今シーズンの戦いぶりを振り返りながら比較してみたい。

 まず、西武から流出した菊池と浅村の昨年の成績は下記の通りである。

菊池雄星:23試合 163回2/3 14勝4敗 防御率3.08

浅村栄斗:143試合 175安打 32本塁打 127打点 打率.310

 特に昨年も防御率リーグワーストだったことを考えると、菊池の穴は容易に埋められるものではないと思われた。そんな西武の投手陣に追い打ちをかける出来事が続く。即戦力として期待された松本航が、開幕前に肺炎を発症して戦線離脱。昨年16勝をマークして最多勝に輝いた多和田真三郎も調子が上がらず、5月には登録抹消となった。7月に一度復帰したが、9月には頻脈性不整脈と診断され、わずか1勝に終わったのだ。では、菊池と多和田の29勝分をどう補ったのだろうか。

 主な投手の昨年と今年の成績を並べると下記の通りとなった。

ニール 昨年:未所属→今年:12勝 差し引き:+12勝

高橋光成 昨年:2勝→今年:10勝 差し引き:+8勝

今井達也 昨年:5勝→今年:7勝 差し引き:+2勝

松本航 昨年:未所属→今年:7勝4敗 差し引き:+7勝

本田圭佑 昨年:0勝→今年:6勝 差し引き:+6勝

 この先発投手5人で昨年から35勝の上積みがあったことになるのだ。特に大きかったのが新外国人のニールだ。開幕当時は調子が上がらず、一度二軍落ちも経験したが、6月下旬にローテーションに復帰すると破竹の11連勝でチームを牽引した。ニールの存在が無かったら、大逆転での優勝はなかっただろう。もう一つ大きかったのが抑えの増田達至の復活だ。昨年はプロ入り後最低の41試合、38回1/3の登板で防御率5.17という成績だったが、今年は65試合に登板して自己最多となる30セーブをマークして防御率も1点台と見事なV字回復を遂げて見せた。1イニングで何人の走者を塁に出したかという指標である「WHIP」も0.88という一流のクローザーと言える数字を残している。先発が崩れても、中継ぎが崩れても、最後に1点勝っていれば増田がいるというのはチームにとって大きな安心感に繋がっていたことは間違いない。

 次に浅村の抜けた打線だが、こちらは新戦力というよりも既存戦力の底上げが大きかった。先発投手陣と同様に主力打者の昨年と今年の打点を並べると下記のようになる。

中村剛也 昨年:74打点→今年:123打点 差し引き+49打点

山川穂高 昨年:124打点→今年:120打点 差し引き:-4打点

森友哉 昨年:80打点→今年:105打点 差し引き:+25打点

外崎修汰 昨年:67打点→今年:90打点 差し引き+23打点

秋山翔吾 昨年:82打点→今年:62打点 差し引き:-20打点

栗山巧 昨年:52打点→今年:54打点 差し引き:+2打点

源田壮亮 昨年:57打点→今年:41打点 差し引き:-16打点

 レギュラーの7人を合計すると、昨年と比べて59打点がプラスになっている。木村文紀(12打点→38打点)、メヒア(21打点→31打点)の二人を合わせるとさらに26打点が加わることになる。浅村の127打点には足りないが、大きな補強がない中でこれだけの上積みができたことは立派の一言だろう。特に驚かされたのが中村だ。123打点は2015年の124打点に次ぐキャリア2位、打率.286はキャリアハイの数字である。36歳を迎えてもなおその長打力、勝負強さは他球団の脅威となっている。

 一方の広島も新戦力という意味ではプロ入り3年目の床田寛樹がローテーションに定着して7勝をマークし、楽天からトレードで加入した菊池保則もリリーフの一角を担ったが、抑えの中崎翔太が不振でわずか9セーブに終わったのが何よりも痛かった。このあたりは増田が復活した西武との大きな違いである。打線も西川龍馬の台頭はあったが、昨年まで不動のレギュラーだった田中広輔が極度の不振に陥り、丸の人的補償で加入した長野久義も昨年までのような活躍は見られなかった。西武、広島ともFAでの流出が毎年のように起こる球団ではあるが、今年に関して言えば新戦力とベテランがかみ合った西武の方が一枚上だったと言えるだろう。

 しかし、将来的な話をすると、決して西武の方が安泰というわけではない。レギュラーで若手と言えるのは森だけであり、山川、外崎、金子侑司の3人も中堅と言える年齢で、一気に定位置を掴みそうな若手も多くない。鈴木誠也、西川が25歳とまだまだ若く、ルーキーの小園海斗や高校卒3年目の坂倉将吾にブレイクの兆しがある広島に比べると世代交代が課題となる。もちろん投手陣も課題だが高橋、今井、松本と若手が出てきていることを考えると野手の手当も確実に必要だろう。

 今年のオフも西武は秋山が海外FA、広島は会沢翼、野村祐輔が国内FAで流出する可能性があり、来年も苦しい戦いになる可能性が高い。そんな中でどのように新しいチームを作っていくのか。両チームの今後のドラフト、オフの補強に注目したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年10月2日掲載

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