台風で電車に大行列 ホントの働き方改革とは(中川淳一郎)

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 9月9日に首都圏を直撃した強烈な台風ですが、JR総武線津田沼駅に大行列ができて電車に乗るまでに2時間かかった、といった慟哭がツイッターに書き込まれていました。この日は多くの人がイライラして、超絶満員電車で苦しい思いをしたことでしょう。

 公共交通機関がマヒした場合はもう「今日の出勤・打ち合わせなし!」とやる風潮、作った方がいいのではないでしょうか。

 そりゃあ水道局や発電所などインフラ系の方々はなんとしても職場に行かなくてはいけないでしょうが、それ以外の人は「今日はしょうがないよね。午後出勤でいいよね」とやる方がいい。小売店にしても「今日は午後オープンです」とツイッターと公式HPで宣言するだけで構わないと思います。

 昭和の漫画には「今日は大事な会議が……」と顔を真っ赤にして出かけようとする病気のお父さんが登場したものですが、実際生きていて「大事な会議」なんてそうそうありません。こういうことを書くと「お前がそこまでのポジションにいないだけだ!」みたいなことを言われるけど。

 私の場合、有名人の取材をしたり、数千万円が動く広告関連の打ち合わせもありますが、「さすがにこれだけの台風(大雪)だと、リスケしましょうか」と互いの空気感で延期にします。忙しい人だらけの会議でも、翌日、なんとか30分捻出するようにすれば、仕事は1日遅れで進められます。

 とにかく一度日程を決めたんだから守らなくては!みたいなことは自然の猛威の前には反故にしてもいいのでは。朝9時の会議のために朝6時に歩き始め、なんとか会社に行く。相当無駄なことだと思います。会議なんてチャットでいい。

 あと、駅員に「責任を取れ!」「タクシー代を出せ!」とか詰め寄るオッサンも時々見かけますが、あのさ、アンタ、文句言ってもしょうがないでしょうよ。すでに大変な状況にある駅員をこれ以上責めても仕方がないでしょうよ。だったら運転手を個人で雇うぐらいの甲斐性見せろっつーの。

 皆が「遅刻をしたくない!」という状態にあるわけですが、鉄道会社の「遅延証明」をいちいち提出させる会社ってバカですか? それを得るためにまた行列作るんですよ。ただでさえ列車が遅れているのに、この行列によりさらに出社は遅れる。労災の関係があるのは分かりますが、都市部ではもう自転車通勤も認めてはどうか?

 さて、そんな9月9日の11時に私も会議があったのですが、相手先のIT企業・サイバーエージェント(渋谷)では滞りなく議事が進行しました。15分・15分・20分で3つのプロジェクトの会議をしたのですが、全員が参加してくれました。

 50分ずっといる責任者はバスで来られる近所に住んでいます。他に2人が渋谷から田園都市線で1駅の「池尻大橋」に住み、もう1人は渋谷から東横線で1駅の「代官山」です。2人はこの日、歩いて出社しました。同社では「2駅ルール」があり、渋谷から2駅以内に住めば家賃補助が出ます。職住近接を推奨する企業の合理性を今回見ました。深夜残業の時も余計なタクシー代を出さないで済むし、会社にとっていいことずくめなのでは。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2019年9月26日号掲載

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