年間14億着の新品服が廃棄処分される無駄 アパレル業界が抱える構造的な問題

ビジネス 企業・業界

  • ブックマーク

Advertisement

 いわゆる「食品ロス」が大きな社会問題となっているのはご存じのとおりだが、アパレル業界でも服が大量廃棄されている。食料品と違って、賞味・消費期限がない洋服がなぜ捨てられてしまうのか。ファッションデザイナーの江森義信氏に聞いた。

 ***

 ファッションビジネスサイト「小島ファッションマーケティング」の調査によると、2017年、衣服の供給量は約28億点だったのに対し、消費量は半分の約14億点。約14億点が余剰在庫となり、過去最高に達した。
 
 年々、衣服が売れ残り続けている理由を、江森氏は次のように分析する。

「バブル崩壊以降、景気の悪化やファッションへの関心の低下にともない、とにかく価格の高い商品は年を追うごとに売れなくなっています。そんな苦しい状況のなか、アパレル企業が採った対策として、値段の安い服を大量生産&販売することで売り上げを維持、拡大しようとしたのです。業界全体がその流れに乗り、その状態が現在にいたるまで続いているのです」

 矢野経済研究所の調査では、国内の衣料品の市場規模は、1990年がピークの約15兆円で、2010年には約10兆円にまで縮小している。にもかかわらず、先述のように衣服の供給量と余剰在庫が増えている。この数字から言えば、アパレル業界はすでに“斜陽産業”になっているといえるだろう。

 当然、店側も売れない服をセールでさばこうと努力はしている。しかし、服には流行があるため、いくら値段を下げても時期を逃せばまったく売れなくなるというのだ。そして、その残った商品を倉庫に保管するとなると、維持費もバカにならない。となれば、最終的には焼却処分しなければならないケースも出てくるのだ。

ユニクロブーム以前から続いていた大量生産

 2018年6月、イギリスを代表する高級ブランド「バーバリー」が発表した年次報告書の内容が、世界中で物議を醸した。そこには、3700万ドル(約42億円)相当の売れ残った新品の服やアクセサリーを焼却処分したと記載されていたのだ。

 バーバリーは、同社の知的財産を守り、製品が盗まれないための措置だと弁明したが、割引やセールで安く売りさばくとブランドイメージや商品価値が下がるため、それを防ぐのが目的だったのではないかと批判された。

「海外の高級ブランドは、価値が下がることを懸念して絶対値下げができません。また、洋服だけでは売り上げが見込めないため、バッグや靴で利益を得ています。となると、ブランド価値を下げるくらいなら、焼却処分した方がいいと考えても、決して不思議ではありません」

 一方で、ユニクロやGAP、ZARAなどのグローバルファストファッション企業による低価格商品の大量生産が、売れ残り商品の増加に関係しているのではないかと思われる方もいるだろう。しかし、それらの企業が誕生する以前から、アパレル業界全体の流れとして、低価格路線による大量生産に舵を切っていたと、江森氏は解説する。

「80年代後半くらいまでのアパレル企業は、“プロダクトアウト型”が主流でした。これは、自前の店舗を持たず、シーズンのかなり前から企画を始め、展示会でのバイヤーの買い付け量に合わせて、生産して商品を卸すというマーケティング手法です。しかし、90年代以降に、企画から製造、店舗を持って小売までを一貫して行なうアパレルのビジネスモデル“SPAアパレル”が台頭してきたのです」

 SPAとは、「Specialty store retailer of Private label Apparel」の略で製造小売ともいう。これによって、アパレル業界は大きく変化した。

「プロダクトアウト型の頃は、店舗にある服がすべて売り切れたらそれっきりで、追加でつくることはまずありませんでした。一方、このSPAアパレルでは、自分たちの店舗に自社ブランドの服だけを置いているので、何が売れ筋商品なのかといった判断が瞬時につきます。追加生産もできるようになったことで、商品の低価格化も可能になったのです」

 当初、SPAアパレルでは自国の工場で服を生産していたが、グローバルファストファッション企業は、より製造コストを抑えるためにいまやベトナム、インドネシア、ミャンマーなどの東南アジア諸国や、アフリカ、中近東国の工場で生産している。

SPAアパレルを見直し“オーダー制”にすべし

 海外に生産拠点を持つSPAアパレルの場合、追加注文するにしても多大な時間がかかってしまうため、構造上あらかじめ大量につくらないと採算が取れない仕組みになっている。この構造こそが大量廃棄の最大の原因だという。

 服の大量生産・廃棄を防ぐには、これからのアパレル業界全体の構造を変えなければならないと、江森氏は指摘する。

「大量生産が悪いというよりも、誰が着るのかもわからないのにつくり、大量に売れ残ったものを捨てることが問題です。なので、注文を受けてからつくる“オーダー制”にするのもひとつのビジネスモデルだと思っています。もちろん全ての企業がオーダー制にするのは難しいでしょうが、今までのようにみんなが大量生産する時代は終わり、企業がそれぞれのやり方を模索していく時期にきているのは間違いありません」

 着られないまま処分されていく服が大量に生まれている構造について、アパレル業界の人間だけでなく、消費者も真剣に考えるべき段階にきているようだ。

取材・文/福田晃広(清談社)

週刊新潮WEB取材班

2019年9月27日掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。