102歳の理髪師「永井季雄さん」常連コミュニティは健在 【達者な100歳にはワケがある】

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現役だからめでたい! 達者な「100歳」にはワケがある(1/3)

 お上がやたらと連呼する人生100年時代。年金支給開始年齢を70歳まで引き上げることが現実味を帯び始め、老後を生きるには“2千万円必要”なんて騒がれると、我々は死ぬまで働かなければいけないのか。そう悲嘆に暮れるムキもあるだろう。

 厚労省によると100歳以上のお年寄りは全国に約7万人いる。老人福祉法が制定された昭和38年にはわずか153人だったのが、56年には千人、平成10年には1万人を超え、その数は年を追うごとに増加の一途を辿る。勤めを辞めてもなお、長いセカンドライフを過ごす人がどんどん増えている。

 ならば悠々自適に暮らしたいと誰もが望むところだが、中には「生涯現役」を貫く方もいる。老体に鞭を打つと言ってしまえば悲愴感が漂うが、経済的な事情からやむを得ないという理由ばかりではなく、嬉々として現場に立つ人々がいるのをご存じか。そんな先達たちの生き方を覗いてみれば、これから余生を送る我々にも学ぶべきところがあるに違いない。そこで、全国に住む各界の最高齢の人々を、訪ね歩く旅に出掛けるとしよう。

 まずは、日本で最も早く秋が訪れる北の大地。102歳で現役の理容師として働く永井季雄(すえお)さんである。

 北海道のヘソと呼ばれる石狩平野にある栗山町で、開業から75年を迎える「永井理容院」の創業者だ。今から35年前、店主の座こそ長男の潔さん(70)に譲ったが、引退することなく店に立ち続けている。

「商売はいつも競争。辞めたいとか、休みたいと思ったことは一度もないよ」

 と、永井さんは胸を張る。定休日の月曜を除き、毎日朝9時半から夜6時頃まで店で働いている。

「仕事をするのが習慣になっているから。それこそ昔は休みもなく働いていたね。組合ができて休みなさいと決まったから、週に1度だけ店を閉めるようになったぐらいでね。この道に入ってから今まで大きなケガや病気をしたことはない。白内障の手術はしたけど今は目も問題ないよ。こうして顔剃りできるくらいだから」

 柔らかな目元が印象的な永井さんも、ひとたび仕事着に着替え剃刀を握れば、眼光鋭い職人の目に変わる。その手つきは確かなもので、かつ滑らかに顔の産毛を捉えていく。客が咳き込めばしっかり間を置き、おさまったところを見計らっては、「もういいですか」と確認し、再び剃り始めるのだ。

 実際、掲載の写真でバーバーチェアに座った常連客の佐藤一英さん(83)が言う。

「オヤジさんの顔剃りは優しくとても丁寧なんだ。この歳になっても全然腕は落ちていないよ。床屋はここしか行かないね」

 近所で金物店を営む常連客の端茂さん(71)も、

「普通はこれぐらいの歳になれば手が震えると思うんだけど、オヤジさんは全然問題ない。安心して任せられるし、わりかし女性的な手つきで優しいんだ。もう90年弱続けているそうだから熟練の技なんだよね」

 などと、皆が永井さんの腕に賛辞を惜しまない。

 店主の潔さんは、

「オヤジの常連さんは10人前後。下は40歳から上は90歳くらいの方までいますけど、もちろん全員がオヤジより年下なの」

 そう言って笑うが、常連さんは永井さんとの会話が何よりの楽しみなんだとか。

 前出の端さんが言うには、

「いつもにこやかに迎えてくれるから気持ちがいいんだよね。この年齢で会話が成り立ち、昔の話まで鮮明に覚えているというのは驚異的だと思う。オヤジさんは、『2・26事件』の時に東京にいたから、青年将校を近くで見たって言うんだ。そういう歴史で学んだ事件の現場にいた人と話せるのもすごく面白いよね」

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