わざと食べられに行く!? 猫を怖がらないネズミを作るトキソプラズマの高度な感染方法【えげつない寄生生物】

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 ゴキブリを奴隷のように支配したり、泳げないカマキリを入水自殺させたり、アリの脳を支配し最適な場所に誘って殺したり――、あなたはそんな恐ろしい生物をご存じだろうか。「寄生生物」と呼ばれる彼らが、ある時は自分より大きな宿主を手玉に取り翻弄して時には死に至らしめ、またある時は相手を洗脳して自在に操る様は、まさに「えげつない!」。そんな寄生者たちの生存戦略に、昆虫・微生物の研究者である成田聡子氏が迫るシリーズ「えげつない寄生生物」。第13回は「猫を怖がらないネズミを作る寄生虫」です。

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ネズミの驚異的な能力

 タタタタタッ。・・・・・・・・・・・・・・・。タタタタタッ。

 屋根裏に小動物の駆け回る音がしたかと思うと、次の日にはネズミ特有の強烈な糞尿の匂いが部屋に広がっています。毒エサを撒いたり、ネズミの嫌いな超音波を出す機械を屋根裏に置いたり、ネズミの侵入経路を塞いだり、燻蒸したり・・・そんな数々の対策も空しく、夜な夜な走る音と、強烈な悪臭に悩まされる。そんな経験をされた方は私以外にもいらっしゃるかもしれません。

 ネズミは体こそ小さいですが、その優れた能力によって人間の仕掛けた罠をくぐりぬけ、悠々と人様の家の屋根裏に住み続けたりすることができます。ネズミの行動を変えてしまう寄生虫の話の前にネズミの驚くべき能力をご紹介できればと思います。

 導入部分でも紹介しましたが、ネズミは犬や猫よりも聴覚が優れているといわれており、超音波といわれている2万ヘルツ以上の周波数も聞き取れるそうです。この優れた聴覚によって、さまざまな種類の音を聞き分け、危険を予測し回避しているのです。そのネズミの聴覚を利用したものが超音波ネズミ撃退器として売られています。ネズミにとってはうるさいと感じる超音波を終始発して、家からネズミを追い払うという仕掛けです。

 また、ネズミの体毛とヒゲは、周囲の振動や障害物を敏感に察知することができ、すばやくその場から避難して身を守ります。ネズミを捕獲するための粘着シートもありますが、ヒゲで素早く感知して退避されてしまいます。

 ネズミは味覚と嗅覚も優れており、毒の入ったエサを仕掛けても、味や匂いで察知してそのエサは食べないといった習性もあります。また、匂いを感じる嗅覚受容体が、1000種類以上もあるといわれており、少なくとも人間の3倍近くの嗅覚能力が備わっています。

 このように聴覚、触覚、味覚、嗅覚に優れ、警戒心がとても強いネズミがある寄生虫によって、行動が変化させられてしまうことが知られています。その寄生虫とは「トキソプラズマ」という極小の微生物です。

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