京アニ放火事件実名公表に遺族から「公表は当然、でも取材の可否は別」の声

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遺族は“「公表」と「取材」は別”

 結果、公表直後の新聞やテレビでは犠牲者の写真やプロフィールが一挙に報じられることに。あまりに大々的な扱いに、まだ事件の傷も癒えない遺族の心情は揺れ動いたのではあるまいか。実名公表反対派も「これがメディアスクラムだ!」と非難した。

「要は場外乱闘が起きているワケです。また、公表された中には遺族が許諾をしたケースとしていないケースが混在することに。思わぬ『分断』も生んでしまった。これらの動きを見ると、府警は従来通り、淡々と発表すべきでした」(同)

 との指摘もむべなるかな、である。

「全員公表」の後、犠牲者の父・石田基志さんが唯一、記者会見に臨み、

「石田敦志というアニメーターがいたことをどうか忘れないでほしい」

 と、涙ながらに述べたのは大きく報じられたが、

「つい先日、幸恵のマンションを引き払って荷物を引き取ってきましたが、悲しみに変わりはありません」

 と述べるのは、事件で娘の幸恵さん(享年41)を亡くした、津田伸一さん。津田さんは、全員の実名の公表は当然だ、と言う。

「もちろん私にも、そっとしておいてほしいという気持ちはあります。でも幸恵を悼むのは私たち家族だけではありません。幸恵の友人も、そして面識はないけれど、アニメファンの方々もそうではないでしょうか。献花台には毎日そうしたたくさんのファンの方々が訪れてくださった。見知らぬ方々まで幸恵を悼んでくださった。しかし、実名が公表されなければ何を拝むことになるのでしょう。匿名の誰かに花を手向けることなんて出来ないですよね」

 その一方で、「実名の公表」と「遺族への取材」の可否は別物だと考えてほしい、とも言う。

「私自身、夜、ヘトヘトで帰ってきたら、あるテレビ局の取材陣が家の前にいた。“今日は疲れたから撮影はやめてほしい”と断ると、“NHKが顔出しでインタビューを取れているのに我々が出さないわけにはいかない”と。また、良い絵を撮りたい、とばかりに勝手に遺影や遺骨を動かされたこともありました。そういう思いを味わったからこそ、取材を受けたくないという遺族に対しては静かにしておいてほしいと思います」

 そして、その上で、

「遺族といってもいろいろな考え方がある。それをひとまとめにして、簡単に“実名公表の意味なんかない”と言わないでほしいですね」

 と続けるのである。

(2)へつづく

週刊新潮 2019年9月12日号掲載

特集「他の事件と何が違うのか 京アニ放火殺人の『実名報道』に『世論』という壁」より

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