「ヘルプマーク」を付けた彼が、電車の中で怒鳴り声を上げたやり切れない理由

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 先日取材に向かうため電車に乗っていた。座席は埋まっているものの、そこそこ空いており、いわゆる「狛犬ポジション」(ドアの両端)に人が立っている程度だった。腰を痛めている私は座席に座っており、スマホに目を落としていた。

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「このカードが見えねぇのかよ!」

 すると、突然「このカードが見えねぇのかよ!」と怒鳴る男性の声が車内に響き渡った。私が座っている座席のもう1つ向こうのシートで20代半ばくらいの男性がうつむき加減で興奮している。

 よく見ると、彼のリュックには赤地に白の十字とハートマークが描かれたヘルプマークがぶら下がっている。すぐにその男性の目の前に座っていたサラリーマンらしきスーツ姿の男性2人が何も言わずに立ち去った。

 そして、その空いた2席のどちらかに座るのかと思っていたら、なんとこちらへ怒鳴った男性がのしのしとやって来るではないか。譲ってもらった席には座らないの……? 恐怖でフリーズしてしまった。できるだけ興奮させないよう、顔を見ないようにしよう……。

 そう思っていると、私の2つ隣に座っていた人が無言で立ち上がり去っていった。そしてさっきまで怒鳴っていた男性は何も言わずにその席に座り、スマホをいじり始めた。

 目的の駅まであと2駅。再び男性が叫び出さないか時おりチラ見したが、彼はスマホに夢中だった。その後は何事も起こらず目的地である池袋に着いて私は下車した。

 彼が付けていたヘルプマークは、最近では電車内の広告やネット上の呼びかけなどでだいぶ認知が進んだと認識しているが、まだ知らない方もいるかもしれない。

 東京都福祉保健局のホームページには「義足や人工関節を使用している方、内部障害や難病の方、または妊娠初期の方など、外見から分からなくても援助や配慮を必要としている方々が、周囲の方に配慮を必要としていることを知らせることで、援助を得やすくなるよう、作成したマークです」と記載されている。

 また併せて、ヘルプマークを付けている方を見かけた場合「電車・バスの中で、席をお譲りください」「駅や商業施設等で、声をかけるなどの配慮をお願いします」「災害時は、安全に避難するための支援をお願いします」と記されている。

 このヘルプマークは都営の地下鉄の駅や一部の鉄道会社の駅、一部の医療機関などで無料配布されており、もらう際に審査などはない。表面に十字とハートのマーク、裏面には障害や疾病についての詳細や緊急時にどう援助してほしいか、緊急連絡先などを書き込めるようになっている。

 私は発達障害の当事者を取材することも多いが、発達障害当事者もヘルプマークを付けている人を時おり見かける。多くは、発達障害の特性そのものというより、二次障害によるパニック障害、社会不安障害などの症状が出た際のためにつけているようだ。

 私も虫垂炎の手術直後10日間ほど傷口が痛み、電車で立っているのがしんどくてヘルプマークが欲しいと探したが、なかなか配布駅に巡り会えず、そうこうしているうちに傷口の痛みは癒えた。

 また、最近ではTwitterでヘルプマークを付けている人がお盆で帰省した際、ヘルプマークを見た親戚に嫌な顔をされたといった内容のツイートがバズっていた。未だに閉鎖的な田舎では親類に障害者がいると恥ずかしいという偏見が残っている地域もあるようだ。

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