違法薬物で逮捕「経産省」「文科省」元キャリア官僚が法廷で語った“生々しい動機”

政治2019年9月11日掲載

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 今春、経産省と文科省のキャリア官僚が、違法薬物の所持で立て続けに逮捕されたことをご記憶だろうか。2人はあろうことか省内に薬物を持ち込み、そのうち一人は勤務中に使用していた。立場をわきまえぬ大胆な犯行には呆れるほかないが、この夏に開かれた公判で、それぞれ違法薬物に手を染めた背景を語った。彼らが明かした“犯行動機”とは――。

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 7月31日、元文部科学省キャリア官僚(初等中等教育局参事官補佐)の福沢光祐(みつひろ)被告(44)の初公判が東京地裁で開かれた。彼は、都内の自宅に覚せい剤0・507グラムと大麻1・05グラムを所持したという覚せい剤取締法違反(使用)、大麻取締法違反、そして自宅で覚せい剤を使用、職場に覚せい剤0・734グラムを所持したという覚せい剤取締法違反(使用、所持)で、逮捕・起訴されていた。

 7月26日付で懲戒免職処分となり、法廷には着慣れたスーツ姿で現れた。恰幅の良い体型で、頭髪は白髪混じりのスポーツ刈り。落ち着いた様子で被告席に座った。起訴状記載のすべての罪について、「間違いないです」と認めた。

 冒頭陳述や証拠によれば、福沢被告は長野県に生まれ、大学院を卒業後、県庁職員となったのち文科省へ。婚姻歴はなく逮捕当時、知人と同居していた。覚せい剤を初めて使ったのは2015年の韓国旅行。17年頃からは密売人から購入し、国内でも使うようになった。今年3月に購入した覚せい剤の一部を職場に保管していたという。元々覚せい剤使用者だったが、逮捕時、大麻も所持していたのは、密売人から「覚せい剤を入手した時、プレゼントのような形でもらった」(調書より)からだという。

 違法薬物に手を染めた経緯については、こんなやりとりがあった。

福沢被告「しばらくは韓国でしか使っていませんでした」

弁護人「なぜ日本でも使うようになったんですか?」

福沢被告「韓国では旅先心で……。ここ2年ほどは職場でだいぶ、理不尽な扱いを受けていた。ストレスで、どうでもいい、どうにでもなれ、という気持ちで使っていました。最後の2年は、高校改革担当の部署にいましたが、改革の打ち合わせ日時や問題を洗い出すメール、会議資料などが私にだけ送られず、上司にも部下にも情報を隠され……対外的に答えないといけない中でストレスが……それで使っていました」

弁護人「病院に行ったり相談したりは?」

福沢被告「心療内科に相談しました。適応障害と言われ、薬を処方されていました」

弁護人「どうしても抑えられなかった?」

福沢被告「はい」

 職場でいじめられてストレスを抱えていたという福沢被告。省内にも覚せい剤を置いていたが、その場でのストレス発散を目論んでいたわけではなかったらしい。こんな事情があったと語る。

「一人で使うこともありましたが、入手してくれる知人と一緒に使うこともあり、それぞれ自前のモノを使おうね、となっていました。急な呼び出しがあると、(覚せい剤を取りに)自宅に帰らないといけない……それが負担で。職場に置いておけば、そのまま持っていけると」

“覚せい剤仲間”からの急な誘いに備え、移動時間短縮のために省内に保管していたというのだ。こうした行動はストレス発散からなのか、それとも単に覚せい剤に依存していたからか……。そんな疑問が浮かんできた頃、質問者が検察官に交代し、こんな質問をぶつけた。

検察官「ストレスが原因と言いますが、それだけですか?」

福沢被告「もちろん性的な楽しみもゼロではありませんでした、それは間違いないです」

検察官「仕事している人、大なり小なり、職場で嫌な思いをしますが、だからといって覚せい剤を使いませんよね。ストレスが覚せい剤の原因と言いますが、どういう理由ですか?」

福沢被告「不徳の致すところで……申し訳ない……出会い系やSNSにストレスの発散を求めていました」

 旅先の出来心での使用から、そのうちストレス発散のため、また性行為時に興奮を高めるためにも使うようになっていったようだ。性的な快楽と結びついた薬物使用は、止めることが困難に思える。その点についても裁判官がしっかり質問した。

裁判官「性的な方面とも繋がっている?」

福沢被告「はい」

裁判官「今後もそのあたりの嗜好的側面からすると、断ち切る難しさがあると思いますが……?」

福沢被告「内面から湧いてくる部分は否定できないので、専門医を含めて相談していきたいです」

 8月18日、懲役2年執行猶予4年の判決を言い渡した(求刑懲役2年)。判決理由で秋田志保裁判官は「覚醒剤への依存性は根深い」としながらも、「職場まで捜査対象になったことによる社会的反響の大きさを自覚し、反省の気持ちを表している」と福沢被告の反省を評価した。

 省内に覚せい剤を置いていたことについて福沢被告は、「ほんとにもう、むしろ対局の、薬物乱用防止を訴える……職場にモノを置いてる、恥ずかしいです」と確かに反省を示していたが、もう一人のキャリア官僚は、彼と同じように省内に覚せい剤を持ち込んだ上、あろうことか勤務中に使用していた。

 福沢被告の判決直前の8月14日、経済産業省製造産業局自動車課の課長補佐だった西田哲也被告(28)の審理が同じく東京地裁で行われた。今年4月、覚せい剤が入っている国際スピード郵便を東京都足立区の自宅で受け取ろうとしたとして現行犯逮捕された。荷物は米ロサンゼルスから送られたファッション雑誌一冊。一部が袋とじ状にされ、中に覚せい剤約21グラムが入っていたのだ。罪に問われているのは、この関税法違反と自宅で覚せい剤を使用したという覚せい剤取締り法違反。逮捕直後の経産省への家宅捜索では注射器が押収されており、西田被告が勤務中に覚せい剤を使用していたこともわかっているが、こちらは起訴されていない。

 裁判所に提出された証拠等によれば、西田被告は東京大学を卒業したのち、2013年に経産省に入省。資源エネルギー庁に配属されたが、残業が多く「終電で帰れたら早いほうで、ときにタクシーで帰宅していた」(父親談)。月の残業時間は平均150時間、多い時で300時間。15年に逮捕当時の所属部署へ異動となったが、その年の冬にうつ病と診断された。通院し、服薬治療を続けるも快方に向かわず、薬の量が増えていったという。数ヶ月程度の休みを3回取ったが、それでも病状は改善しなかった。被告人質問でこう自ら明かした。

「正直、悪くなる一方で、今に至るまで通院しています。抗うつ剤や眠剤など……中には強い薬もありました。より効果が強いものを求めるようになり、ベタナミンが処方されるようになりました」

 それでも「日によって違い、問題なく職場に通える時期もありましたが……」と語り、完全には回復しなかった。そのため「より改善できるものがないか探し回りました」という彼がたどり着いたのがリタリンだった。うつ病では処方されないため、ネットで購入するようになったという。

「酷いうつの中で、仕事に行きたいという気持ちが判断を鈍らせてた……」

 と、西田被告は当時の状況をこう分析した。そんな折、上司から「今度休みを取るときは休職扱いにして、その後は配置換えにしよう」と提案される。だが、これが西田被告をさらに焦らせることになったようだ。

「私としては当時の自動車課で働きたいと思っていましたが追い詰められて、なんとか仕事に行かないといけない、と……。自動車課で働くか、休んで異動するか、その二択を迫られていた、藁にもすがる思いで手を出した」

 それが覚せい剤だったというのだ。

「仕事に行きたい、行けないのは何よりも辛い状況、酷いうつ病で正しい判断ができなくなっていたと思います」

 最初は売人から購入していたが、そのうち密輸に手を染める。販売目的ではなく、あくまでも自己使用のためだったという。だが、実際は“正しい判断ができなくなっていた”というよりも、経済的事情を冷静に判断した上での選択だったようにも思える。

「覚せい剤は高額で、使う頻度が上がったということもあって、購入代金がかさむようになった。私の収入はそんなになく、収支がかなり厳しくなっていた。入手するなら安く入手するしかない……と。調べると、海外のサイトから買うと安く仕入れられるので購入しました」

 取引には、わざわざ匿名性の高いビットコインを使用。発送先に空き家を指定し、不在票を受け取って自宅に再配達依頼をしていたという。休職になると異動になる、それだけは避けたいという思いだけが、本当にここまで彼を追い詰めたのだろうか? 正しい判断ができないという西田被告の言い分と、捜査の手を逃れるため、非常に手間のかかる海外通販を使っているさまが、じつに対照的である。

「今年の2月から覚せい剤を使い始め、毎日1日2回使用。職場のトイレや会議室でも注射していた。購入するだけでなく、挙げ句の果てに密輸してまで使用。依存性親和性が強い」として、西田被告には懲役3年6ヶ月が求刑された。そして、9月10日の判決公判では懲役3年執行猶予5年(保護観察付き)が言い渡された。

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
傍聴ライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』『木嶋佳苗劇場』(共著)など。

週刊新潮WEB取材班編集