元NHKアナが振り返る「私が違法薬物で逮捕された日」 会社は懲戒解雇、うつ病に……

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 NHKのアナウンサーを13年間務め、『ニュース シブ5時』にも出演していた塚本堅一氏(41)が、違法薬物の所持と製造で逮捕されたのは2016年1月10日のことである。その後、罰金50万円の略式判決を受け、NHKからは懲戒解雇された。世間は、現役のNHKアナが薬物事件で逮捕されたことに衝撃を受けた。

 8月26日、塚本氏は逮捕から社会復帰するまでを綴った『僕が違法薬物で逮捕されNHKをクビになった話』(KKベストセラーズ)を出版。ご本人に話を聞いた。

「昨年の春、依存症関連の機関紙に僕のことが取り上げられたのですが、それを見た編集者から、本を執筆しないか声をかけていただきました。最初はお断りしていたのですが、説得されまして……。どうせ書くなら、すべてを洗いざらい書いたほうが良いと考えました」

 と塚本氏。彼が使用していた違法薬物は、ラッシュという危険ドラッグだった。

「ラッシュは、セックスドラッグです。大学生の19歳か20歳の頃だったと思いますが、友人に勧められて初めて使いました。当時は違法ではなく、アダルトショップや本屋や雑貨店で簡単に入手でき、全国的に流通していました。特に男性同性愛者の間で流行していたものの、男女問わず愛好者はいましたね。マジックやシンナーのような揮発性の液体で、それを嗅ぐと強いお酒を飲んだ時のように高揚感があって、心臓がバクバクします。元々、心臓の気つけ薬なのでそうなるのです。持続時間は2、3分ほどでしょうか」

 ところが、06年に販売規制が始まり、14年には所持や使用が禁止された。他のドラッグの入り口(ゲートウェイドラッグ)になるとして、取り締まりが始まったという。

「使用禁止になった時点では、好きだったけどしょうがないと思っていました」

 塚本氏は明治大学を卒業後、03年にNHKに入局。京都や金沢、沖縄勤務を経て、15年に念願の東京アナウンス室に配属された。再びラッシュを使い始めたのは、15年の夏だったという。

「サイトで、ラッシュに似た効果を出せる液体が売られているのを見つけました。材料は合法と書いてありました。製造キットがあって、自分で調合するのですが、価格は3000円と安かったし、ストレスの解消にいいかな、と軽い気持ちで買ってしまったのです。僕は、薬物は1人で使用していました。取締が始まり、沖縄勤務時代はパートナーと暮らしていたこともあり、使っていませんでした。ところが東京に転勤になって1人暮らしになり、ちょっと買ってみようかなと。魔がさすとは、こういうことなのでしょう」

 塚本氏は、件のサイトで2、3回購入したという。ストレスで疲れた時に使用した。ところが、そのサイトは捜査機関に目をつけられていた。塚本氏は本名で購入したため、NHKのアナウンサーということも捜査機関にバレてしまった。そして、逮捕された16年1月10日を迎える。

 その前日、塚本氏は日帰りで山梨県の勝沼ぶどう郷に出かけていた。『僕が違法薬物で逮捕され~』から、逮捕された時の様子の一部を紹介すると、

〈今日は髪を切って白髪でも染めるかと美容室のWEB予約をしていた時のことです。時間は朝9時過ぎでした。「ピンポン」と玄関のチャイムが鳴ります。(中略)荷物が届く予定もなかったので、休日の朝早くに何だろうと不思議に思い、のぞき窓を確認すると、黒っぽいスーツを着た集団が、家の前に大勢集まっています。(中略)「どちらさまですか?」と扉越しに尋ねると、「役所の者です」という答えが返ってきます。「何の用です?」と何度か尋ねても「役所の者」と繰り返すだけです。(中略)意を決して玄関の扉を開けると、15人ほどの集団が一気に部屋になだれ込んできます。ビデオカメラで撮影する者あり、無表情で部屋の中を物色する者あり、私はパニックの中、そのままリビングのソファまで押し流され座り込みました。私の両隣を塞ぐように捜査員が腰かけます。「なんで来たかわかっているよな?この家に怪しいものがあるだろう。それを素直に出して」(中略)「そこにある黄色い缶に入ってます」と伝えました〉

 塚本氏の部屋をガサ入れしたのは、厚生労働省関東厚生局麻薬取締部、通称マトリだった。その後、九段下の庁舎に連行され、押収した液体が違法薬物であると確認されると、即逮捕となった。そして、深夜に湾岸警察署に移送された。

「今でもガサ入れの時の恐怖は忘れられません。釈放されてもしばらくは電話も取れなかったし、来客も怖かったです。電話やインターホンが鳴っただけで恐ろしかったんです」

 30日間の拘留生活については、

「食事は冷えたお弁当で、お風呂は週に1回。10畳の部屋に3人で暮らしていましたが、特に不便は感じませんでした。拘留生活よりも、その後の自分がどうなるかが心配でたまりませんでした」

 50万円の罰金を支払って釈放後、NHKから懲戒解雇を言い渡された。その後、仕事を探すためハローワークに通うが、NHKを辞めた理由を話すと、敬遠されたという。そのため、先行き不安になり、うつ病に。気を紛らわすため、1カ月間ヨーロッパを旅行したり、家族で台湾旅行に出かけたりもした。

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