香港「反政府デモ」を威嚇する中国「武装警察」の恐るべき正体

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 香港情勢が緊迫する中で、武装警察が集結する映像が注目を集めた。日本や米国は「第二の天安門事件」の発生を危惧。トランプ米大統領も8月18日、天安門に言及したが、香港に隣接する広東省深センでの武警の訓練映像は、国際社会の懸念が杞憂に終わらないかもしれない可能性を示唆している。英国統治時代から続く香港の繁栄と香港人の自由は、香港総領事館で領事官補を務めた時に身を以て感じていた。それを土足で踏みにじるかもしれないこの恐るべき組織について、日本ではほとんど知られていない。そこで私の個人的体験を交えながら、解説を試みたい。

 私が中国とパキスタンの国境地帯を訪れたのは2011年9月。在中国大使館外交官補として北京大学で研修している頃だった。いまでは100万人ともいわれるウイグルの人々が強制収容されている新疆ウイグル自治区(詳細は拙稿「米政府機関から締め出された中国の“監視カメラメーカー” 背後にウイグル弾圧問題」)。西部の都市カシュガルからタシュクルガンを抜けてパキスタンへと続くカラコルム・ハイウェイは、左右にはムスタグアタ山(標高7546メートル)を始め山々が迫り、途中にはアフガニスタンへと向かう通路もみえる。

 パキスタンがもうすぐというところで、チャーターしていた車の前に現れたのが武装警察だった。後部座席に乗っていた私を両脇から挟み撃ちにするように、左右からそれぞれ一人ずつ乗り込んできた。身分証(中国国民が所持するIDカード)を見せるよう要求されたので、外国人であることを説明した上で旅券を提示した。危害は加えられなかったが、銃を所持する人間に身を寄せられて極めて不愉快な思いをした。

 中国共産党が彼ら武警に期待するのは、中立的な言葉を用いれば治安維持だが、それでは実態を捉えることはできない。これでは中国の特殊性が浮かび上がらないからだ。中国の地政学的なアキレス腱は民族と国境であり、この二つは密接に関連している。中国の急所を自分の目で確かめたいという思いから向かったのが中パ国境だったが、漢族ではなくウイグル人が多数を占める地域の国境ということで、武警の警戒も厳しかったというわけだ。

 武警を組織面からみるとどうか。国防法22条では、武装警察が人民解放軍、民兵とともに武装力量を構成すると定められている。そしてより重要なのは、同法19条によって武装力量が共産党の指導下に置かれることが規定されていることだろう。中国の軍隊は国家ではなく党の軍隊であることはある程度知られていようが、武警も党の下にあるということだ。

 人事面からは軍との一体性が容易に見て取れる。武警トップである司令員はいま王寧武警上将が務めているが、王はこのポストに就く直前までは副総参謀長を務めており、まさに軍の中枢に身を置いていたのだ。その前は、首都防衛という重要任務を担っていた北京軍区で参謀長を務めるなど、党中央の信頼が厚い人物といえよう。なお王の父親も軍人だったというから筋金入りだ。

 政治委員を務める安兆慶も前述の王と同じく軍出身であり(王は陸軍、安は空軍)、やはり軍と武警の一体性を表す人事といえよう。政治委員という役職は実務の担当ではなく、いわば共産党からの目付であり、中国のような一党独裁国家ならではだ。安は空軍の各部隊で政治委員を歴任しており、軍そしてその上に立つ党の意向を武警に貫徹させるために送り込まれたとみることができる。さらにいえば、王も安も上将(他国の大将に相当)に任じられたのは習近平国家主席の政権掌握後であり、そこには個人的忠誠が生まれている可能性がある。

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