トランプの顔に泥を塗った文在寅 米韓同盟はいつまで持つのか
日本とのGSOMIA(軍事情報包括保護協定)を破棄し、米国の面子を潰した文在寅(ムン・ジェイン)政権。取りざたされ始めた「米韓同盟消滅」を、韓国観察者の鈴置高史氏に聞いた。
速報「日本は軍事大国化を夢見ている」と敵視 韓国・次期大統領候補“超リベラル政治家”の恐るべき正体
亀裂はとっくに入っている
――米韓同盟は果たして存続するのでしょうか?
鈴置: 8月23日、韓国がGSOMIA破棄を日本に通告して以来、多くの人から同じ質問を受けています。『米韓同盟消滅』という本を昨年10月に出版していたためです。
韓国は朴槿恵(パク・クネ)政権時代の2016年11月に、日本とGSOMIAを結びました。「日米韓」の安保協力強化を狙う米国が間を取り持ちました。それを韓国が破棄したのですから日本や米国はもちろん、世界が「米韓同盟に亀裂が入った」と見ました。
文在寅政権と韓国の左派だけが「米韓同盟は相変わらず堅固だ」と言い張っています。それを信じる人は韓国でもほとんどいないでしょうが。
「米韓同盟は崩壊の過程にある」と指摘した。『米韓同盟消滅』を読んでくれていた人々が「やはり、そうだったのだ。では、いつ同盟は消滅するのか」と疑問を抱き、聞いてくるのです。
ひとことで答えれば、米韓同盟がこの事件によって壊れる可能性は低いと思います。ヒビが入ったことは確かですが、すでにもっと大きな亀裂が入っていたからです。
8月25日のフランスでの日米首脳会談で「GSOMIA」が話題にのぼらなかったのも、外交関係者の間では「大ニュース」でない証拠です。
「共通の敵」がなくなった米韓
――「もう亀裂は入っているから」とはトリッキーな答えですね。
鈴置: 奇をてらっているわけではありません。「事実」がそうなのです。米国と韓国はすでに別居状態にあります。内情を知る人は「いつ、正式に分かれるのかな」といった感じで眺めていたのです。そんな状態の夫婦が口げんかしても、大勢に影響はありません。
米国との同盟を打ち切るつもりの文在寅政権が、GSOMIAを一方的に破棄したのは「予定のコース」です。米韓同盟だってやめるつもりですから、同盟国でもない日本との軍事協定を続けるのはおかしいのです。
2017年の大統領選挙でも、文在寅候補はGSOMIAの再検討を公約していた。ただ、米国との関係悪化を恐れ、直ちには動けなかった。それが今回、「信用できない日本」を口実に破棄できるようになったので実行した、ということに過ぎません。
『米韓同盟消滅』に沿って米韓関係をおさらいします。2010年頃から、米国の安保専門家が日本の信頼できるカウンターパートに対し「米韓同盟はもう、持たない。長くてあと20年だ」と漏らし始めました。
私も2013年に米国の専門家に「米韓同盟はいつ消滅すると思うか」と聞いたところ「今すぐではない。しかしそんなに遠い先ではない」との答えが返ってきました。『米韓同盟消滅』の第1章第2節「『根腐れ』は20世紀末から始まっていた」をご覧下さい。
理由は簡単です。米韓の「共通の敵」が消滅し始めたからです。1992年8月の中韓国交樹立以降、韓国は急速に中国に接近しました。21世紀に入り中国の台頭がはっきりすると、韓国は中国の言うなりになりました。
保守政権か、左派政権か、には関係ありません。経済的な関係が急速に深まって、2007年頃から韓国の対中輸出額は、対米・対日輸出を足した額よりも大きくなったからです。
歴代王朝が属国だった
――日本も「対米」より「対中」輸出額の方が大きい年もあります。しかし「米国側の国」であり続けています。
鈴置: 地政学的な差です。日本は島国で海に守られています。一方、韓国は中国大陸に存在します。中国を敵にはできないのです。歴史的にも、朝鮮半島の歴代王朝は中国大陸の王朝の属国でした。
韓国人は今も無意識のうちに「中国の指示には従わなければならない」と考えるところがあります(第2章第2節「どうせ属国だったのだ……」参照)。
――確かに、中国という米韓「共通の敵」は消滅した……。
鈴置: そこが日本と異なる点です。そして、最後の「共通の敵」が消滅したのが2017年でした。この年の5月にスタートした文在寅政権はもう一つの敵、北朝鮮との和解を最大の目標に掲げました。韓国が北朝鮮を敵と見なさなくなった時点で、米韓同盟の存在意義は消え去ったのです。
もちろん、共通の敵がなくなったからといって、同盟が直ちになくなるとは限りません。物事には惰性が働くからです。離婚していない夫婦が、全ていい関係にあるとは限らないのと同じです。
しかし、北朝鮮の核問題が浮上したことが米韓同盟の消滅を大きく後押ししました。2017年1月に登場したトランプ(Donald Trump)政権が「北朝鮮の非核化」の見返りとして「米韓同盟の廃棄」に応じる方針に舵を切ったからです。
習近平主席の示唆によるものです。初の米朝首脳会談が2018年6月に開かれたのも、北朝鮮が米国のこの取引案に一応、応じた結果です。
米政府がこの取引案をはっきりと語ったことはありませんが、関連する多くのファクトがその存在を示唆しています(第1章第1節「米韓同盟を壊した米朝首脳会談」参照)。
[1/4ページ]