「吉本問題、謝罪が遅い」と叱る朝日新聞「慰安婦誤報」の謝罪に30年かかった矛盾

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「芸人と反社」の関係を問うた世間の怒り。それは今や「お笑いの殿堂」に向かい、吉本叩きが燎原の火の如く拡がっている。大新聞は大上段にトンチンカンなお題目を並べ、公取まで仰々しく介入する事態に発展したが、そもそも我々はお笑い芸人に何を求めているのか。

 かつて羽織ゴロ、すなわち羽織を着たゴロツキと呼ばれた新聞記者の本領発揮か、はたまた……。

〈吉本社長会見 これでは旧弊を正せぬ〉(朝日新聞)

〈反社会勢力と芸人 古い体質変え関係断絶を〉(毎日新聞)

 朝日、毎日という全国紙が相前後し、お笑い界のガリバーの混乱に乗じて、社説で「吉本批判」を展開したのだった。

 いずれも、コンプライアンス(法令順守)徹底時代に反社との関係断絶は必須、圧倒的な数の食えない芸人を放置すれば反社はたちどころに甘言を弄して近づく……などと、それこそ食えない内容である。毎日よりも読後の溜め息が深くて長い朝日を俎上に載せることにしよう。

 中身をざっと紹介すると、

(1)芸人らが危うい仕事にも走る背景には、不安定な立場と苦しい生活状況があるといわれる。

(2)「闇営業」問題が報じられて約1カ月半。ようやく公の場で謝罪したものの、この間の会社としての動きはあまりに遅く、不透明だった。

(3)社長も会長も辞任はせず、報酬5割減にとどめるという。ことの重大性がわかっていないのではないか。吉本興業はお笑い界をリードする存在であり、社会への影響が大きい分、責任も重い。

 まずは(1)について。そもそも生き馬の目を抜く芸人の世界である。そこには一攫千金を夢見る人間たち、実力で伸し上がろうと弱肉強食の教えを奉じる者たちが集っている。成功者は当然、億を超える額を稼ぎ、しがないサラリーマンには成し得ないドリームを実現する。逆にメジャーになれない者は、才能が無いのだから自ら数年で去る他ない。島田紳助は「10年やって上がれんやつは辞めるしかない」と語っていたが……。

 成功者になれなかった場合の「苦しい生活状況」に手を差し伸べるべく、最低保障をというのは「いいとこ取り」で虫が良すぎやしないか。

 吉本は一流、超一流へのチャンスとなる舞台を与えているだけであって、芸人が6千人いるからといって社員6千人の大企業とはワケが違う。それを同列に論じようとするから道理が通らなくなるのだ。

 そして(2)については、「従軍慰安婦誤報」問題がどうしても頭を過(よぎ)る。

 1982年9月2日付朝刊(大阪本社版)に始まる一連の報道は、“稀代の詐話師”こと吉田清治氏による「1週間に済州島で200人の若い朝鮮人女性を狩り出した」というホラ話に乗っかった結果だ。その後、この吉田氏を少なくとも16回、紙面に登場させている。

 2014年8月、〈慰安婦問題 どう伝えたか〉と大特集を組んで検証を行なって、「裏付け取材が不十分だった」とはしたものの、自らを正当化する論理に終始していた。

 そして同年9月11日、当時の木村伊量社長が会見で、「訂正が遅きに失したことについて、読者にお詫び申し上げる」と謝罪するに至る。報道から30年余が経過してのことであり、当の検証記事からも1カ月が経過している。闇営業報道から1カ月半での謝罪を「ようやく」などと断じるのは、勘違いも甚だしくはないか。

(3)については、前述9月11日の会見で木村社長は辞任表明せず、実際に辞任するのは、12月を待たねばならなかった。これでは、「他人に厳しく自分に甘い朝日」と詰(なじ)られても致し方ないだろう。

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