銀座の有名「文壇バー」が立ち退きを迫られ、移転先が見つからないワケ

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 顧客が多くて、売り上げも順調だが、後継ぎ不在で廃業に追い込まれる中小企業は少なくない。高級飲食店や有名ブランドショップが軒を連ねる大人の街、東京・銀座でも、似たような問題が起きているという。

 夜の銀座には、財界人の大物や文化人が足繁く通う有名クラブが幾つかある。文壇バーの系譜を継ぐクラブ「ザボン」もその一つだ。昨年5月、帝国ホテルで開かれた40周年記念パーティーの発起人に名を連ねたのは作家の椎名誠や重松清、そして林真理子といった豪華な顔ぶれ。ちなみに、店名は作家の故・丸谷才一がママの故郷・鹿児島の特産物にちなんで命名したという。

「実は、40周年を迎える前、そろそろ店を畳もうかとも考えていたのです」

 こう振り返るのは、オーナーママの水口素子さんだ。

「常連のお客様の一人で『ゴルゴ13』の作者、さいとう・たかをさんから“寛いで飲める店が無くなると困るじゃないか。微力ながら応援するよ”と仰っていただいた。なので、新たに店を続ける決意をしたばかりでした」

 ところが、「ザボン」が入居するビルの不動産会社の社員が5月末、水口ママの元を訪れる。

「ここは2年契約で今年は更新の年でしたが、契約書がなかなか送られてきませんでした。担当者にそれを話すと、“今年は自動更新ですから契約書も、契約料も必要ありません”といいつつ、“実は、耐震の関係もありビルを取り壊す予定です。1~2年後には退去していただきたい”とね。急なことでしたから驚きました」

 問題は、新築されるビルに入居できそうにもないことだ。不動産会社の社員は、移転先を探すと明言したと言うが、

「クラブは条例で風俗になるようで、銀座の新しいビルは“入居不可”が多い。私は1978年からここで営業しているので、銀座6丁目と並木通り近くには、こだわりたい。お客様に寛いでいただくことも考えると、やはり店の広さは今と同じくらいの25坪は欲しいですね」

 銀座には座っただけでウン十万円という高級店もあるが、「ザボン」は個人客が安心して飲める店として知られている。

「銀座も、義理と人情の街ですから当然です。お客様も多いので、あまり心配もかけられません。早く条件に合う物件が見つかるといいのですが……」

 文壇バーの系譜を存続させるためにも、どこかに良い物件はありませんかね。

週刊新潮 2019年8月1日号掲載

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