日・ロ・中・朝から袋叩きの韓国 米韓同盟の終焉を周辺国は見透かした

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岩国基地も射程に

――北朝鮮の弾道ミサイル試射も「初めて」ですか?

鈴置: ある意味では「初めて」なのです。このミサイルは高空に打ち上げられた後に急速に落下、低空を飛行して標的を狙う新型です。

 ロシア製の「イスカンデル」か、そのコピーと専門家は見ています。韓国軍の保有するミサイルはもちろん、米軍のTHAADでも撃ち落とせないとされます。

 韓国人は北朝鮮の核弾道ミサイルの前で「初めて」丸裸になったのです。射程が690キロもありますから、それは日本にとっても同じことなのですが。軍事境界線のすぐ北から撃てば、山口県岩国の米軍基地まで届きます。

――北朝鮮が「岩国まで射程に入れた」と言っているのですか?

鈴置: そんな米国を刺激するようなことは、北朝鮮は絶対に言いません。米韓を明確に分け、あくまで韓国だけを脅しています。

 試射の翌日の7月26日、朝鮮中央通信はミサイル発射に関し「南朝鮮(韓国)に先端攻撃型兵器を持ち込み、軍事演習を強行しようと熱を上げる軍部勢力に警告を送る武力示威の一環だ」と報じました。

見逃す米国

――米国もこの試射を問題視しませんでした。

鈴置: その通りです。それどころかトランプ(Donald Trump)大統領は韓国人にとって聞き捨てならないことも語ったのです。

 まず、「あれは短距離ミサイルだ。多くの国が持っているではないか」と、問題にしない姿勢を打ち出しました。

 それに対し「米国にとっては短距離ミサイルに過ぎないかもしれないが、同盟国である日本や韓国にとってはそうではない」と質問が出ました。

 すると、トランプ大統領は以下のように語ったのです。ホワイトハウスのサイトから引用します。なお、「彼」とは金正恩(キム・ジョンウン)委員長、「彼ら」とは南北朝鮮を指します。

・He didn’t say a warning to the United States. But they have their disputes. The two of them have their disputes. They’ve had them for a long time.

「彼は米国に対する警告とは言わなかった。あれは彼らの紛争なのだ。彼らはずうっとそうやってきたのさ」と、ミサイルの試射は韓国の問題であって米国の問題ではないと言い切ったのです。

 北朝鮮は国連制裁によって経済の困窮が進んでいます。米国は金正恩政権の立場が弱まって核を放棄するのを待つ作戦です。だから米国を交渉に誘い出そうと北朝鮮がミサイルを撃っても、敢えて無視しているのです。

 もちろん、大統領がそうとは露骨には言えないので「米国向け警告ではない」と誤魔化したのですが、そこで思わず「朝鮮民族の内輪もめ」と本音をしゃべってしまった。同盟国であるはずの米韓の間に一線を引いてしまったのです。

演習名から消える「同盟」

――「南北朝鮮は勝手に争え」ということですね。

鈴置: それがトランプ大統領の、多くの米国人の本音でしょう。韓国は米国に守ってもらいながら、中国包囲網――インド太平洋戦略に加わろうとしない。それどころか米国を裏切り、中国と手を組もうとしている(「日本に追い詰められた韓国 米国に泣きつくも『中国と手を切れ』と一喝」参照)。

 韓国の裏切りに、米国の外交関係者は怒り心頭に発している。そしてついに、米韓の間の亀裂を見透かして周辺国が一斉に動いたのです。それが7月に起きた「韓国袋叩き」の本質です。

 日本だって、米国が仲裁に乗り出すと読んだら、韓国に対する輸出管理の強化には乗り出さなかった可能性が高い。

 中ロが共同軍事演習で韓国を脅しあげたのも、米国が反応しないとの確信があったからでしょう。米韓は2019年8月の演習を最後に、合同軍事演習を取り止めると見る専門家もいます。

 この演習も当初は「19-2同盟」との名称で呼んでいましたが、「同盟」を削除する方向です。北朝鮮に忖度した文在寅政権が言い出しました。米韓同盟はまず、「名」から消えて行くわけです。

 中国の国防白書も米韓の亀裂に付けこみました。中国も今、脅せば韓国が、在韓米軍のTHAADを追い出すと踏んだのです。

 2017年10月、文在寅政権は中国の脅しに屈して「THAADを追加配備しない」との条項を含む「3NO」を中国に約束しています(『米韓同盟消滅』第1章「離婚する米韓」参照)。

 当時以上に米韓関係は悪化していますから、中国が「ここでもうひと押しすれば、THAAD撤収を実現できる」と期待するのも当然です。

 北朝鮮が短距離弾道ミサイルを堂々と発射するのも、米韓の亀裂のおかげです。米国からやり返されないうえ、孤立感を深める韓国をよりコントロールできるようになります。韓国が8月以降の合同演習に、さらに消極的になるのは間違いありません。

自ら引いたアチソン・ライン

――「米国との亀裂が袋叩きを呼んだ」との自覚はあるのですか。

鈴置: 尹徳敏(ユン・ドクミン)韓国外国語大学碩座教授が朝鮮日報に「我々自らが招いたアチソン・ライン」(7月29日、韓国語版)を寄稿しました。

「アチソン・ライン」とは1950年1月に、アチソン(Dean Acheson)国務長官が講演で語った米国の防衛ラインのことです。「アリューシャン列島―日本―フィリピン」と設定し、韓国を外しました。

 当時、米国は韓国と同盟を結んでいなかったのです。この「亀裂」を見透かした北朝鮮が同年6月に韓国に侵攻し、朝鮮戦争が始まりました。尹徳敏教授の主張を要約します。

・なぜ突然、大韓民国は周辺大国の袋叩きにあったのか。我々自らが「第2のアチソン・ライン」を引いたからだ。
・バランス外交との名目で韓米同盟の比重を減らし、韓中関係を重視した。「中国の夢」や「一帯一路」を通じ、中国とは運命共同体となった。一方、インド太平洋戦略には冷淡であった。
・韓米同盟が確かなものだったら、日本が安全保障を口実に経済で報復したり、中ロの戦略爆撃機が我が領土を侵すこともなかった。

 韓国人は米韓同盟が累卵の危うきにあるのに、それを認めようとはしなかった。見たくないものは見ない、という心情からです。でも、これだけ「袋叩き」にあった以上、無視するわけにはいかなくなったのです。

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