テスラ社の自動運転車で初の「交通事故」 夫を奪われた妻の悲痛な叫び

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自動運転車で初の惨事 大黒柱を奪われた母娘の慟哭(1/2)

 交通事故や渋滞を激減させ、高齢ドライバーにも僥倖(ぎょうこう)をもたらす――。「自動運転車」は輝かしい未来を約束する次世代技術の結晶とされてきた。だが、日本で初めて起きた「惨事」が浮き彫りにしたのは、夢の車の根幹をなすコンピューターの「暴走」リスクだった。

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 突然の「事故」によって櫻井隆太さん(仮名・44)=当時=が命を落としてから1年あまりが経過した。残された母娘が暮らす自宅の玄関先には、いまもツーリング好きだった彼の白いヘルメットが飾られている。

 櫻井さんと中学時代からの付き合いだった妻が、伏し目がちに心境を明かす。

「夫が事故に遭った当日もかぶっていた、愛用のヘルメットです。帰宅する時はいつも、バイクのキーをヘルメットに放り込んであそこに置いていたんですね。そのままにしておけば、いつか彼が帰ってくるんじゃないか……。いまでもそんなことを考えてしまう。一周忌が過ぎたというのに、私たち母娘は現実を受け止められないでいます」

 ふと顔を上げた彼女の視線の先には、仏壇の脇に飾られた記念写真があった。そこでは、夫妻とまだ幼かった頃の娘が仲睦まじく寄り添っていた。

 遺族を悲しみの淵に追いやった痛ましい「交通事故」は、昨年4月29日、午後2時半過ぎに起きた。自身も負傷したバイク仲間の男性が事故当時を振り返る。

「櫻井さんとはお互いの先輩や後輩を交えて毎週、ツーリングに出かけるのが恒例となっていました。あの日は仲間たち4人で箱根を訪れ、その後、東京に戻るため東名高速を走っていたんです」

 ちょうど海老名サービスエリアを過ぎた辺りのことだ。追い越し車線で4人の前方を走行していたキャラバンが渋滞に差し掛かり、急ブレーキをかけた。

「先頭を走っていた僕の反応が間に合わず、キャラバンの後部に突っ込んでしまった。その拍子に僕の身体は路上に投げ出されました。櫻井さんたちはすぐにバイクを停めて、ヘルメットを外して駆け寄ってきました。そばを走っていたライダーたちもバイクから降りて119番通報してくれた」

 彼が仲間に支えられて中央分離帯の茂みに腰かけた、その数分後のことだった。

「キャラバンの後に停まっていたバイクが僕に向かって降ってきた。呆然としていると、そのうち自分の頭から血が流れているのが分かりました。周囲では“どかせ! どかせ!”“ノーブレーキで突っ込んできやがった!”と怒声が飛び交っている。それに続けて“あっ、櫻井さん!”と。僕の目に飛び込んできたのは、道路上に突っ伏して真っ赤に染まった櫻井さんの顔でした。見る見るうちに血だまりが広がっていった……」

 男性が神奈川県警から受けた説明によれば、まず、道路上にいた彼らに向かって車両が加速して近づき、停車中のバイクを撥ね飛ばした。宙を舞ったバイクは櫻井さんたちにぶつかる。衝撃で路上に転倒した櫻井さんの頭部を、この車両が轢(ひ)き、そのままキャラバンに追突したのだ。

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