カサンドラ妻が発達障害夫との離婚を決意した「恐怖の一夜」

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そうか、私はカサンドラだったのか

 恐怖の一夜が明けて、次の日。

 保育園から帰ってきた上の子が私に言った。「クラスの◯◯君の家にはお父さんがいないんだって、それでもいいんだって」と。

 それで離婚することに決めた。

 離婚にはさらに1年かかり、それはそれで大変な思いをした。

 その間に発達障害をめぐる状況は大きく変わっていた。

 新しくDSM-5という診断基準が導入されたことを受け、アスペルガーはASD(自閉スペクトラム症)に統合され、ASDはスペクトラム状の障害であるということが知られるようになってきた。スペクトラムとは連続体を意味する。以前は症状で区別されていた、アスペルガーや自閉症、そのほかの広汎性発達障害などが本質的に同じ特性を持っている同じ属性の障害であると定義されるようになったのだ。またASDとADHDの特徴を同時に持ち合わせるケースが多いことも理解されるようになってきた。

 同時に、大人の発達障害にスポットがあたりはじめ、さらにコミックエッセイ『旦那(アキラ)さんはアスペルガー』シリーズの著者として知られる野波ツナさんが、その4作目となる『旦那(アキラ)さんはアスペルガー 4年目の自立!?』で自らの「カサンドラ」体験について描かれたことから、「カサンドラ」という言葉も知られ始めるようになる。

『旦那(アキラ)さんはアスペルガー』を読んだことはあったが、その時は受動型のアキラさんと夫のキャラクターがあまりに違ったためピンとこなかった。

 けれどカサンドラは完全に自分にあてはまると思った。

 夫とのコミュニケーションに問題があり、話し合いができない。そのためトラブルは予想できても回避ができず、その違和感を周りに話しても「男の人なんてそんなもの」と理解してもらえない。周囲にたしなめられ、自分を責めるうち、心身に不調が現れ動けなくなる。

 コミックエッセイでは「真っ白な原稿を前に手がピクリとも動かず、用紙を眺めているうちに気づくと夕方になっている」という描写がでてくるのだが、それもまったく同じだった。

 そうか、私はカサンドラだったのか。

 そう思う一方、私は本当に自分に自信が持てなくなっていた。

 発達障害を知れば知るほど基準が曖昧で、自分も発達障害じゃないと言い切れないような気がする。

 夫婦間のコミュニケーションに問題があることはわかるが、「おかしいのはお前だ」と散々言われてきたこともあり、どちらの認知がよりズレているせいなのかがもはやわからない。

 私は検査を受けてみることにした。

【参考文献】
『新版 ADHD のび太・ジャイアン症候群』司馬理英子著(主婦の友社)
『旦那(アキラ)さんはアスペルガー 4年目の自立!?』野波ツナ著(コスミック出版)

〈次回につづく〉

星之林丹(ほしの・りんたん)
1982年、東京都生まれ。結婚を機に制作会社を退職してフリーランスに。6年で離婚、2児の母。

2019年7月15日掲載

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