カサンドラ妻が発達障害夫との離婚を決意した「恐怖の一夜」

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5歳の我が子の憎まれ口に夫がガチギレ

 そうこうしているうちに、下の子は2歳、上の子は5歳になっていた。2人育ててみると違いが良くわかる。下の子となら、子連れでも買い物ができたし、病院で検診中に部屋のドアを片っ端から開けていくようなこともしなかったし、お友だちとの別れ際にパニックを起こすこともないし、泣いていても共感して抱きしめてあげるという教科書通りの対応で問題ない。2人目で私が育児に慣れてきたのも多分にあるが、それを差し引いても「育てやすいとはこういうことか!」と思った。

 ただ上の子は早いうちから色々と自分でやりたがり、できるようになったが、下の子は自分でやることにはそこまで関心がないようで、全部人にやってもらいたがったので、そういう意味では手がかかる。きょうだいでも全く違う。「個人差」の「差」は、私が子どもを産む前に考えていたものよりはるかに大きい。

 言葉が遅く心配していた上の子だが、5歳になる頃にはすっかり流暢にお喋りできるようになっていた。そうすると保育園でさまざまなフレーズを仕入れてくる。とはいっても「うんこー」とか「ばかぁ」とか「ふざけんなぁ」とか。幼児が大好きな、たわいもなく可愛らしい憎まれ口だ。

 ところがある日のこと。お友だちとの別れ際のパニックを引きずり、帰宅後も機嫌が悪かった上の子が、そのテンションで夫に「ばか!」と言った。

 すると夫は鬼の形相で怒り出した。テーブルを叩き、わずか5歳の我が子に向かって、ヤンキーがするように顔を近づけ「誰にばかっていってるんだ、ああん?」と凄んだのだ。結婚生活の中で驚くことはたくさんあったが、これが一番びっくりしたかもしれない。

 馬鹿にされたと思って本気で腹を立て、面子を守りにいったことはわかったが、相手は5歳児の我が子である。世間一般の基準では、「ばか」と言われても馬鹿にされたことにはならないのではないか。またヤンキー漫画などでは家族間では気軽に「ばか」などと言い合うもので、面子云々の対象外なのではないだろうか。

 呆気にとられコンマ1秒でそんなことを考えたが、泣くことさえできず震え固まる我が子の姿を見て我に返って間に入った。私が割り込んだのでさらに夫は怒り狂い、怒りが収まらないまま一人大声を出しながら酒を飲み、家中をドンドンバンバンと歩き回る。

 私たちは寝室に避難したが、狭い家なので隔てるものは襖1枚だけ。子どもたちはずっと隣で震えている。どうしようもなくて、夫が別室に行った隙に夫の父に連絡した。「助けてほしい、彼の会社は実家からのほうが近いのだからしばらくそちらで見てもらえないか、お義父さんから話してくれれば彼も受け入れるだろう」と。すると義父は「別居なんてダメだ」と言って私の電話を切った。

 するとすぐ、別室の夫の携帯が鳴った。バアンッと乱暴に別室のドアが開けられ、電話に向かって怒鳴りつける夫の声が近づいてくる。電話の向こうから義父の怒鳴り声も聞こえる。「ぶっ殺すぞ」と唸り声が聞こえ、襖が開けられ、怒りで真っ赤に血走った目がこちらを睨みつけてくる。

 義父は夫への接し方を全くわかっていないようだった。私には夫に対して優しくするようことあるごとに言っていたのに。「彼は今怒り狂っている」と義父にきちんと説明して配慮を求めたにもかかわらず、義父は電話で夫を怒鳴りつけ、怒らせて、知らんぷりして、その結果、私と子どもたちはさらなる恐怖にさらされている。

 誰も助けてなんかくれないのだ。

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