神奈川逃亡事件で考える“保釈問題” 被害者が語る“保釈中に海外逃亡した詐欺師”への怒り

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

判決の日で“行方不明”が発覚

 産経新聞の「誰が責任を取るのか」で紹介された3つ目の保釈は、阿部被告や小林容疑者のケースと比べれば、衝撃こそ少ないかもしれない。だが、これも我々の市民感覚に照らし合わせれば、裁判所の判断には首を傾げざるを得ないものだ。

《(編集部註:3月14日)東京地裁で予定されていた判決公判。食のイベント「グルメンピック」の開催をうたった出店料詐欺事件で詐欺罪に問われた田辺智晃被告(43)は姿を現さず、判決期日は5日後に再指定されたが、その日も出廷しなかった。保釈中に海外へ逃亡した可能性が高く、地裁は保釈を取り消す決定をした》

 一部のメディアは海外に逃亡したと断言しているが、いずれにしても希代の詐欺師に保釈が認められ、判決の日に“とんずら”したことが発覚したわけだ。法曹界の猛省が必要なのは言うまでもない。経緯を改めて見ていこう。

 この「グルメンピック巨額詐欺事件」で、被害対策弁護団は公式サイトに事件の概要を掲載している。以下のような具合だ。

《大東物産株式会社(以下、「大東物産」とします。)及びその関係者は、計507の店舗等から「グルメンピック2017」、「大阪グルメンピック2017」と称するイベント(以下「グルメンピック」とします。)の出店料名下で金員を集め、平成29年1月17日付けで、突然、「グルメンピック」の中止を発表し、合計1億2689万3340円の出店料等を返金しないまま、平成29年2月20日、東京地方裁判所に破産手続開始申立をするに至りました》

 弁護団は《被害は、グルメイベントに関するものとしては、我が国史上最大規模のものです》としている。今回、被害者の会で代表を務める鈴木亮平さんに取材を依頼し、事件を振り返ってもらった。鈴木さんは東京都の中野区でダイニングバーを経営。料理もそうだが、特にビールとワインの品揃えには力を入れている。

「2016年に大東物産から封筒が送られてきました。そこに17年2月から10日間にわたって開催される『グルメンピック』の案内状が入っていたのです。グルメイベントには興味があり、何度か足を運んでいました。すると協賛の関係などで、ほとんどの出店でビールメーカーが統一されていることに気づいたりもします。詳しい知人に相談すると『イベントでメーカー縛りは珍しくないよ』と教えてもらいました。そんなことがあり、なかなか出店ができなかったのです」

 鈴木さんが大東物産に問い合わせると、「ビールは、どこのメーカーでもOKです」と寛容な態度を示す。会場は東京都調布市の味の素スタジアム。まさに理想的なイベントだ。

 更に破格の好条件を提示された。出店料の前払い金は税抜で40万円なのだが、今なら20万円。たとえイベントが中止になったとしても、イベントでの売上が75万円以下で終わった場合でも、出店料は全額が返済されるという。

「半額に釣られたというより、『20万円なら出店してもいいかな』と思いました。16年のうちに20万円と税金分を振り込みました。その後、私の店の近くに大東物産の本社があると知り、スタッフと見に行きました。ところが古くて小さな雑居ビルの5階に入居していたんです。企業情報で資本金は1億1200万円と書かれていましたが、あんな大規模なグルメイベントを開催する会社には見えません。あの時、嫌な予感がしたのですが、それが的中してしまいました」

 大東物産が運営する「グルメンピック」の公式サイトに「突然ですが、実施時期見直しのご案内をさせていただきます」との文面が掲載された。日付は「1月17日付」となっていた。

 読売新聞が2月24日に報じた「食の催し 出店料集め中止 企画会社 破産手続き 刑事告訴も検討」の記事から、詐欺事件だと発覚するまでの様子を引用させていただく。

《延期を知った店主らは同社に問い合わせたが、電話はほとんどつながらなかった。HPに1月23日付で「2月末日に返金する」と掲載後は電話番号が使われていない状態になり、同社は2月20日付で東京地裁から破産手続きの開始決定を受けた。一部の問い合わせに対し、同社社長は「イベント運営の経験はなかった」と話していたという》

 イベントを開催するつもりもないのに出店料をかき集め、計画倒産に踏み切ったのは明白だった。被害者も連携を求めて集まり、鈴木さんが代表に選ばれた。鈴木さんは弁護士を探し、相談し、そして依頼した。

 これに警察も動く。警視庁は6月、主犯格とされる自称コンサルタント業、田辺智晃被告、共犯で大東物産の前社長である大須健弘被告ら4人を詐欺の疑いで逮捕。翌年8月に初公判が東京地裁で開かれた。田辺と大須の両被告は無罪を主張するなど、検察側と全面的に争う姿勢を見せた。

 そして19年3月14日、判決の日を迎えた。まず公判が分離されていた大須被告に懲役3年6カ月の実刑判決が下った。ところが主犯とされる田辺被告ら4人の判決が言い渡される法廷では、田辺被告の姿が見えない。

 田辺被告には保釈が認められており、既に海外へ逃亡していたことが判明するのだが、法廷の様子を鈴木さんが振り返って言う。

「実は実刑判決が下った大須被告は、裁判で自分の行為を悔いたり、私たちが座る傍聴席に向かって頭を下げたりするなど、反省の様子が見られました。彼には『しっかりと更生してほしい』という気持ちを持っています。ところが田辺被告は判決の日であるにもかかわらず、裁判所に来ていない。『反省の色がないどころじゃない。裁判所をなめている』と言う人もいました」

次ページ:保釈率32・7%の恐怖

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。