神奈川逃亡事件で考える“保釈問題” 被害者が語る“保釈中に海外逃亡した詐欺師”への怒り

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保釈後に射殺事件が起きたケースも

「私が被害者という立場だからかもしれませんが、保釈制度が本当に必要なのか、疑問を感じざるを得ません」――この切実な思いを、法曹界はどう受け止めるのか?

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 共同通信は6月19日、「実刑確定の男が車で逃走 刃物所持か、神奈川・愛川」と配信した。そう、あの男が野放しになったことを伝えた初報だ。

《19日午後1時半ごろ、窃盗や傷害などの罪で実刑が確定した小林誠元被告(43)を収監しようと、神奈川県愛川町のアパートの一室を横浜地検職員が訪れたところ、車で逃走した。刃物を所持しているとみられ、地検や神奈川県警が行方を追っている。県警によると、東名高速道路で名古屋方面に向かったのが確認された》
(編集部註:全角数字を半角数字にするなど、デイリー新潮の表記基準に改めた。以下同)

 そして23日、共同通信は「実刑確定の逃走男逮捕、横須賀で 公務執行妨害容疑、発生から4日」と報じた。新たに逮捕されたため、初報の「小林誠元被告」は、この時に「小林誠容疑者」に変わった。

 逃走が報じられてから、どれだけ小林容疑者が保釈に値しない人物が、多くのメディアが競うように報じた。何しろ逃走した自宅からも潜伏先からも、注射器が見つかっているのだ。

 小林容疑者は傷害や窃盗に加え、覚せい剤取締法違反の罪も問われていた。そして横浜地裁小田原支部は懲役3年8カ月の実刑判決を下している。

 デイリー新潮も7月6日に「神奈川逃走事件『クスリをやりながらチワワを浴槽で溺死させた』凶暴犯の素顔」の記事を掲載した。コメント欄には「そもそも保釈させるのがおかしい」との書き込みが相次いだ。

 人権を重視する朝日新聞ですら、7月4日の朝刊に「逃げない前提、保釈の穴 2月接触も拒否、問われる検察態勢 神奈川、容疑者逃走」の記事を掲載。神奈川逃走事件を《裁判所による保釈の妥当性も問われた》と指摘した。

 小林容疑者に対する大捕物から浮かび上がるのは、日本の裁判所は現在、保釈を積極的に認める方向へ舵を切ったということだ。しかしながら、それに対する異論は根強い。例えば産経新聞は3月28日、「殺人罪で実刑判決に保釈 逃走・再犯リスク…検察『誰が責任取るのか』」の記事を掲載した。

 特に検察サイドの怒りに焦点を合わせた記事だが、従来では考えられなかった保釈の具体例として3つのケースが紹介されている。最初の例から見てみよう。まずは講談社の青年コミック誌「モーニング」の編集次長だった朴鐘顕(パク・チョンヒョン)被告の保釈が決定されたケースだ。

 妻を殺害したとして殺人罪に問われた朴被告は3月6日、1審の東京地裁で懲役11年の実刑判決を受けた。だが同じ東京地裁は同月27日、保証金800万円での保釈を認めた。殺人という重罪が問われた被告に保釈が認められることは、以前なら皆無だったと断言していい。

 法曹関係者にも激震が走った。だからこそ、産経新聞は保釈が認められた翌日の朝刊に、「誰が責任を取るのか」の記事を掲載したわけだ。

 記事が出た後の話になるが、保釈に納得できない検察が特別抗告を行うと、3月28日に東京高裁は「逃亡や証拠隠滅の恐れは低くない」と判断、地裁の保釈決定を取り消した。朴被告は保釈を求めて最高裁に特別抗告。だが4月4日に最高裁は朴被告の特別抗告を棄却し、保釈を認めなかった東京高裁の決定が確定した。

 とは言うものの、1審で殺人罪が認められ、実刑判決が下された殺人犯の保釈請求が、少なくとも1度は認められたという事実は大きい。

 産経新聞の記事に戻れば、第2例として紹介されたのは阿部勝被告に対する保釈だ。これも我々一般市民には理解し難い内容だと言える。該当部分を引用させていただく。

《覚せい剤取締法違反罪に問われた指定暴力団住吉会系組員の阿部勝被告(56)は保釈中の今年1月21日、東京・歌舞伎町で職業不詳の男性を射殺し、今も拳銃を持ったまま逃走しているとみられる》

 保釈のために1人の命が失われた。保釈を決定した裁判官の責任が問われないのが不思議でならない。阿部被告といい、冒頭に見た小林容疑者といい、こんな連中でも今の裁判所は保釈してしまう。

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