「虐待は他人事じゃない、自分もする可能性がある」と幸せな家庭の一児の母が気づいた日

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娘を初めて叩いてしまったときの気持ち

「この子、こんなにミルクを飲まないで、どうやって生きているんだろうって思ってました。哺乳瓶も粉ミルクも、それこそ全メーカーを試したんですよ。それなのに、この子はなんでできないんだ、『こっちは、やれることを全部やってるのに、なんでお前は出来ないんだ』って思うようになっちゃって。

 それで、ぐっと口の中に哺乳瓶を押し込んだんです。そうやって娘に向かって『飲めー! 飲めー!』って叫んでいるのを、その時、手伝いにきていた母親が見とがめて、『そんなこと、しちゃダメだよ』って代わってくれたものの、わたしのイライラは消えなくて。母親が帰った後はまた、哺乳瓶を無理やりに、押し込みました」

 真奈美さんの試行錯誤の様子は、当時つけていた育児ノートからもうかがえる。授乳や睡眠、排せつの時間と回数はもちろん、その日にあったことや、わずかな変化が細かい字でびっしりと、几帳面に記された育児の記録ノートだ。

「生まれた月のカレンダーや、処方された薬の注意書きの紙まで、全部残してある。自分でも、なんでここまでやったんだろう、っていま見ると気持ち悪いですね。授乳の記録は、一応飲み始めの時間にスタンプが押してあって、次のスタンプとの間が、一見開いているように見えますが、実はずっとつながってるんですよ。哺乳瓶のミルクを飲み干してるわけじゃなく、だらだらとずっと飲み続けていて、で、育児書にあったように、『授乳を開始した時間から2時間空いたから、また飲ませなきゃ』って、実際は何時間も続けて授乳してるんです」

 授乳は、育児の中でも幸福感に満ち足りた時間とされることが多い。けれども、実際には母乳神話に苦しめられたり、思うように飲んでくれなかったり、ようやく飲み終わらせたところですべて吐き出してしまったりと、様々な苦労が伴う。本来はパートナーが、そうした苦労を分かち合える存在となるが、真奈美さんの場合は、頼りたくない事情があった。

「夫が……離婚したから、今は元夫なんですが、見兼ねて手伝ってくれることもあったし、夜中の授乳もしてくれていました。けど、基本的にあんまり当てにはしてなくて。いい加減な人だったんですよ、うちの旦那。たとえ、夜の授乳を代わってくれても、ちゃんとミルクが作れているのか心配で寝た気がしない。毎日まったく休まらなくて、すごくストレスが溜まっていました。

 日中も子どもが家にいるじゃないですか。ろくに昼寝もしてくれないから、わたしも昼寝が出来ない。そうこうしているうちに、搾乳した自分の母乳の質も信頼できなくなってきて、せっかく搾乳した母乳をそのまま捨ててしまったりもしていました。

 そういう状況で、初めて叩いたのは、まだ首も据ってない、1カ月くらいの頃ですね。ノイローゼだったんだと思いますよ。泣き止まなかったことが理由でしたが、叩いた時の気分は……すっきりはしないですよね。気分はよくないけど、なんとかして言うことを聞かせる方法はないか、しか考えられなかったです」

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