韓国で有名大学のマスコット犬が出入り業者の晩飯に…犬肉食の最新事情を探る

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犬肉食文化の落日

 6月10日にはまた、ソウル大学校獣医科大学のイ・ビョンチョン教授が犬の虐待を巡って警察の調査を受けた。イ教授は、ES細胞論文不正事件で有名なファン・ウソク元教授の後継者。世界初の体細胞クローン犬スナッピー誕生に貢献した研究者でもあるが、今年4月からはクローン犬の虐待疑惑で非難の矢面に立たされている。

 イ教授はまた、食用犬を巡る問題でも注目の的だ。2017年、自身の研究チームが実験用の犬を食用犬飼育施設で入手していたことが発覚。法的な問題はなかったが、イ教授とソウル大動物実験倫理委員会は改善を約束した。ところが公営放送KBSは今年4月、その後も食用犬飼育施設からの調達が続いている疑惑を提起している。

 イ教授がどれだけ売り上げに貢献したか定かでないが、食用犬飼育施設はいまやお先真っ暗といっていい有様だ。

 大手紙「ハンギョレ」が今年4月に伝えたところでは、ペットも含めた犬飼育施設は韓国全土に約1万8000カ所。そのうち約1万5000カ所が、食用犬飼育施設だ。また「ソウル新聞」によると、韓国で飼育されている食用犬は約250万頭という。一方で2017年に野党議員と動物保護団体が発表した報告では、糞尿処理の届け出を出している飼育施設が最小2862カ所、飼育頭数78万1740頭。ただし届け出ていない施設も、相当数見込まれるとしている。

 いずれにせよ、どこもみな需要の大幅減で経営は火の車らしい。今年2月の報道にあった証言によると、犬肉の出荷価格は8年前の約6割。多くの業者が食用犬からペット犬に切り替えてみるものの、技術不足で軌道に乗せるのは難しい。廃業にあたって犬の始末に困り、宿敵のはずの動物愛護団体に相談する業者もいるという。

 法の死角に置かれていることもあってか、その不衛生な飼育環境はかねてから悪評が高かった。また食品廃棄物=生ごみをエサとしている点にも批判が高まっている。さらに朝鮮半島では、「犬は殴って殺すとうまくなる」と言い伝えられてきた。飼育業者の団体・大韓育犬協会は「いまはそんな処理方法はしていない」「悪意のある歪曲だ」としているが、残酷なイメージはなかなか拭えない。

 過去には、犬肉を牛肉や豚肉などと同等に扱うための法改正も議論されたことがあった。だがいまは、真逆の議論が熱を帯びている。任意の食肉処理を禁止する動物保護法改正案、食品廃棄物の給餌を禁止する廃棄物管理法改正案、そして犬を家畜から除外する畜産法改正案が、複数の議員によって発議されているのだ。この3つは現地メディアで、「犬肉の食用禁止トロイカ法案」と呼ばれている。

 かつては夏の風物詩でもあった韓国の犬肉食。いまも数々の物議を醸しているその伝統は、もはや風前の灯だ。

高月靖/ノンフィクション・ライター

週刊新潮WEB取材班

2019年7月2日掲載

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