犬好き感涙! 鞭打たれる仲間をかばう、ボス犬の愛

社会2017年12月30日掲載

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 世界最北の村、グリーンランドのシオラパルクでは、犬ぞりが大切な移動手段になっている。北極圏ではスノーモービルが主流になっているところも多いが、燃料を持参しなくてはいけないから長距離が走れない、故障したら極寒の氷海に孤立する、爆音で猟の獲物が逃げてしまう……など、いろいろ問題があるらしい。この村では、今でも急病人の搬送など特殊な場合を除いて、スノーモービルを使うことがないのだとか。

 そうなると、優秀な曳き犬が不可欠。寒さや重労働に耐える体力はもちろんだが、なにより「人犬一体」、人の思い通りに犬たちが動いてくれなくてはいけない。そのためには、人にも犬を操るだけの熟練の技が求められる。また犬との確固たる信頼関係を築くことも大切だ。

 極北の村では、どんなふうに犬と接しているのだろうか? 40年前、この村に取材に入った写真家、中村征夫さんは、日本人の犬との接し方との違いに驚いたという。愛犬家の中村さんは、犬を見るとすぐに近づいて仲良くなるのが常。しかし、そりを曳く犬に安易に接しようとすると、猟師に「ペットではないから」とたしなめられた。勝手に餌をあげたり、頭を撫でたりすることは禁物。餌は2、3日に1度だけ。寝るのも野外。犬とのコミュニケーションは、アザラシの革で作った鞭を介して行われる。

 10頭前後の犬がリーダー犬をセンターに扇型になってそりを曳く。サボっている犬は曳き綱が緩むからすぐにわかる。猟師は7、8メートル後ろのそりの上から、長い鞭を振るってその犬を打つ。すると「キャイーン」と飛び上がって走り始める。もし、間違えて真面目に走っている犬を打ってしまうと、犬はふてくされて走らなくなってしまうのだという。鞭さばきひとつで犬との信頼関係が築かれもすれば壊れもする。実際に鞭を振ってみると、これがとても難しいのだとか。思ったところに鞭を当てられないどころか、下手をしたら自分の体を打ってしまって怪我をする。この村では幼い頃から鞭を持って練習している。

 ある日、中村さんは一人の猟師が自分の犬を激しく鞭打っている場に遭遇した。猟師は情け容赦なく、激しく犬たちを打ち据えてている。あとで聞いてみると、アザラシ猟に出かけた際、犬たちが氷の裂け目に落ちてしまい、助け上げたところ、猟師を置き去りにして犬たちだけで村に帰ってしまったのだとか。猟師はひとり、歩いて帰るしかなかった。もしもっと距離が遠かったら、もし途中で吹雪にあったなら、猟師は命を落としていたかもしれない。村に帰るなり、猟師は置き去りにして勝手に帰った犬に怒りをぶつけていたのだという。

 10頭くらいでソリを曳く犬たちの中で、センターで群れをリードするのがリーダー犬だ。こんな事故が起こった時、いちばん強く鞭打たれるのもまた、リーダー犬だ。リーダー犬には従順な雌犬がなることが多い。一方、リーダーとは別に、群れを率いる雄のボス犬もいる。叱られて悄然としているリーダー犬のもとに、庇うようにそっと寄り添うボス犬の姿を見た中村さんは感動してシャッターを切った。

 そんなエピソードも含め、水中写真で知られる中村征夫さんが40年前に撮影した極北の村の写真が一冊の本にまとまった(『極夜』新潮社刊)が刊行された。犬たちのことだけでなく、4カ月もの間太陽が昇らない「極夜」の村に生きる人々の、暗闇で繰り広げられる悲喜こもごもを、写真と短いエッセイで綴っている。決して甘くはない、だけど揺るぎない犬と人との関係を、戌年を迎えるこの時期、考えさせられた。

デイリー新潮編集部