「交番襲撃」が相次ぐ理由 元警察官僚、古野まほろ氏が分析

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地域警察官のワンオペ問題

――なら、どのようにすれば拳銃強奪のリスクを小さくできるか。

「既に警察庁が……何度も何度も……通達・指示を出しているが、『耐刃防護衣の常時着装』『相手方と間合いをとること』『相手方の動向を注視すること』『装備資器材の有効活用』『カウンター等設備の有効活用』等の基本の励行は、地域警察官なら常に教養されているところである。

 現場においても、『誘(おび)き出しにどのように注意するか』『急訴事案があったとき急訴人にどう対応するか』といったことは、昭和の昔から、マニュアル化されるなどして地域警察官の頭に叩き込まれている。昭和の昔から、というのは、この種拳銃強奪とそのための『誘き出し』は、犯罪者にとって、古典的かつ永遠の手口だからである。だから当然、『誘き出し』=『1人にされたときどう対処するか』は、現場においても定式化された論点となっている」

――それでも現実に交番襲撃は多発しているし、拳銃強奪も行われてしまっている。

「ゆえに警察庁が、新たな施策として『奪取されにくい新型拳銃入れ』を導入・配備しつつあることは……それがかえって取出しを阻害するなど不便でなければ……現場の地域警察官のためになることであり、ひいては、地域住民のリスクを軽減することにもなる。

 また、警察庁が近時、現場の射撃訓練シミュレータの教養シナリオに『交番襲撃』のシナリオを追加したことも、上に述べた基本の励行をよりリアルな形で学ばせることにより、交番襲撃に対する事案対処能力を強化することにつながる」

――それで十分と考えるか。

「現在の耐刃防護衣は、往時と比較してかなり改良されているが、それでも死角はあり、近時の事案を踏まえ、そこをどう物理的に防護するかは急ぎ/絶えず検討されてよい(といって、死角をなくすのは構造上無理だろうが……)。

 また、個人の装備資器材あるいは交番等の設備による『非常時の通報』の在り方を見直して改善を加える、交番の内外あるいは近傍に防犯カメラを多数設置するなどの措置は、現下の情勢を踏まえれば、すぐにでも取り掛かれるのではないか。

 加えて、交番襲撃・拳銃奪取への対処能力は、上司が常日頃から、きちんと実戦的な逮捕術訓練・術科訓練をやらせておくことにより強化されるが……平均的な地域警察官は3交替制で24時間勤務を行う上、最近の泊まりは実に多忙であると聞いているから、『しっかりした』訓練を行う時間の確保に難がある。また時間が確保できたとして……例えば体力的にヘロヘロな状態で出席しなければならないときなど……どれだけ意義のあるものにできるかには疑問がある。無理矢理出席させて約束動作をして終わり、では何の意義もない。『実戦の場面で役立つ』『最新の知見が導入されている』『最新の事例が前提とされている』『きちんと超過勤務等として認められる』『上司が業務の多寡を踏まえて質・量を調整する』といった、合理的かつブラックにならない上司のマネジメントが必要になる」

――話を聞いていると、間合いとか、動向を注視するとか、実戦的な逮捕術訓練とか、精神論が多い気もするが。

「きちんと励行しなければいけない基本というのは、精神論の要素を多く含まざるを得ないのだが……ただ私も個人的には、往時のマニュアルにあったような『必殺の一撃をもかわす間合い』『必殺の一撃をもかわす警戒心』といったスローガンよりも、物理的な施設や装備資器材を整備充実させる方が優先されると思う。

 ただ、交番襲撃・拳銃奪取事案の本質は、『地域警察官のワンオペ問題』であるから、精神論だろうと物理的な装備資器材・施設の整備だろうと、限界があることは否めない」

――地域警察官のワンオペ問題とは?

「さっき『誘き出し』について述べたように、襲撃者は地域警察官を1人にすることを狙う。今般の吹田市の事案でもそうだった。そのために被疑者は偽計まで施している。むろん、その方が強奪・逃走ともに容易だからだ。ならば、襲撃者に対処すべく、地域警察官が1人になる場面をなくす/極力少なくするというのが解決になるが……。

 ……これがなかなか難しい。というかできない。

 そもそも『駐在所』なら1人勤務であり、ワンオペが大前提である。

 他方で『交番』は複数勤務だが、ミニマムな交番だと1日当たり2名の地域警察官しかいない。法令が想定する平均的なところだと1日当たり3名(具体的な話は避け、平均なりモデルなりで論じる)。ここで、『空き交番を作るな』『交番にはいつも警察官がいてほしい』というのが地域住民の永遠の要望であるから、いざ何らかの事案が発生したとなれば、モデル的には、2名が臨場して1名が在所するか、1名が臨場して2名が在所するかということになろう(実際には複数臨場が奨励されるが、事案の軽重や仲間の勤務状況にもよるので、必ずしも2名で臨場しない/できない)。となると、平均像としては、街頭に出撃する側にしろ、交番に残る側にしろ、どのみちワンオペになる可能性が高くなる。これらを言い換えると、通常に・平穏に勤務していても、地域警察官が『1人になる』ことは当然あるということだ。

 もちろん、襲撃者は虚偽の通報等でわざと『1人になる』状況を作り出すわけだが、虚偽の通報等をしなくとも、ワンオペの状態にはいくらでもなる。また、詳しくは述べないが、そうなりやすい時間帯もそうなりやすい状況もある。

 そこで、警察庁も警察本部も、『警察官の複数配置』『複数勤務』『複数臨場』ということを強く指示するわけだが、これは要は人の回し方の問題=今いる必要最小限の定員をどこにどれだけ配置するかという懐事情の問題なので(ちなみに公務員の増員などそう簡単に認められるものではない)、極論、定員自体がドラスティックに増えないかぎり、ワンオペ問題は解消されない。

 つまるところ、現在の組織・定員を前提とするかぎり、地域警察官が『1人になる』状況は変わらず、したがって襲撃されるリスク・拳銃を強奪されるリスクはなかなか減らない。これが、交番襲撃・拳銃奪取事案の本質であり、解決すべき構造的な問題であろう」

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