敏腕刑事への道は、厳しい徒弟制度! 警察キャリア出身の作家が描く“超リアル”な内実

社会2018年7月10日掲載

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殺伐とした刑事部屋

 新入りの刑事に対して、先輩刑事は懇切丁寧な指導をしない。寡黙に、ときには横暴な態度をとりながら、鍛え上げる――小説やドラマなどフィクションの世界ではお馴染みの構図である。

 多くの一般企業ではなかなか見られないこうした上下関係だが、実際にはどうなのか。警察キャリア出身の作家、古野まほろ氏は、近著『警察官白書』で刑事の世界の「徒弟制度」の実情を明かしている(以下、引用は同書より)。

 警察官の中でも、「刑事はやはり花形ですから、刑事志望者は多いです」と紹介され、実は刑事部門では、現代ではあまり見ない「徒弟制度」が本当に存在しているという。生活安全部門、交通部門、警備部門も厳しいが、刑事部門はその比ではないというのだ。

「生安・交通・警備のどの専務も、それは新人を厳しく鍛えますが、刑事部屋の殺伐(さつばつ)とした雰囲気なり、それこそ極道の組事務所のような恐ろしさなりは、他のギルドではなかなか味わえないものでしょう。

 もちろん、マル暴にとって組事務所が恐ろしくないように、ベテランの刑事にとってはそれがノーマルで、むしろ居心地のよいものなのですが。

 そのような環境で、いちばん末席のデスクを与えられた新任の刑事は、見よう見まねで、『見て盗みながら』『背中を見ながら』『ケツにくっつきながら』『指導部長(指導をしてくれる巡査部長)の書類を書き写しながら』『コピーのときは勉強用に手控えをかすめとりながら』刑事の実務を憶えてゆくことになります。

 下命(かめい)された捜査書類を――それもかなり初歩的なものを――懸命に作成して指導部長に校閲をお願いすれば『ダメ』『ダメ』『バカ!!』(理由説明なし。5回目のアタックで、黙って聞いていた係長あたりがそっとポイントを囁(ささや)いてくれるかも)。

 下働きなどは真っ先に終えていないと『使えない』。

 初めて死体見分に出てみれば、『お前がやってみろ』。

 平成30年の今では、さすがにもう少し『やってみて、言って聴かせて、させてみて……』型に変わっているはずですが、まあ、警察だの刑事だのに限らず、スキルというのは口で教えられたら忘れるものです。手と足と体で憶えるのが最も合理的です。

 だから、日本社会の一般論として、刑事の徒弟制度がとりわけおかしいとは言えませんが……」

刑事はつらいよ

 相当ハードな教育環境だが、それもこれもハードな日常業務を考えると致し方ないのかもしれない。

「発生モノの被疑者が検挙されていないのなら、『検挙するまで帰ってくるな!!』――となりますし、いざ検挙されたなら、『警察の持ち時間48時間、検察が24時間、勾留がついてくれればさらに10日間、もう一発つけてくれたら最後に10日間』という、最大23日弱のタイムリミットで、『細工は知らねえが仕上げたぞオラ!!』『これ以上どうやれってんだコラ!!』と叫びたくなる感じで、夜も昼もなく仕事をしなければならない」

 事件が起きていなくても、刑事の日々の仕事は膨大で、常に緊張を強いられ、臨戦態勢にいる。機動捜査隊の刑事はパトカーで巡回して、常に現場に一番乗りを目指している。また、警視庁等の大規模な府県警察には刑事部屋に寝泊まりしながら24時間勤務する刑事を置いていることもある。

 彼らが相対し、摘発するのは、突発的な事件から計画的な犯罪まで、無差別殺傷犯、知能犯、経済犯、愉快犯など、手口や動機も巧妙化し、潜在化するような、一筋縄ではいかない犯罪者ばかりだ。

 いまどきのマニュアル重視の優しい指導がなされるのは遠そうである。

 それでも、刑事を目指して警察官になる人は多いのだという。

デイリー新潮編集部