「タワーマンション高層階」は子育てには最悪の環境、耳の不調を訴える子どもが続出

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 タワーマンション(タワマン)と聞いて、イメージするのはセレブ、ハイソサエティ……。なにしろ、1階エントランスはシティホテルのように豪華で、フロントには、若い女性のコンシェルジュがいて、“おはようございます”“行ってらっしゃいませ”“お帰りなさい”と挨拶してくれる。マンション内にはジム、プール、キッズルーム、ゲストルームなどがあり、ホテルに住んでいるような気分になる。

 一般に、60メートル以上のマンションをタワーマンション(超高層マンション)と呼ぶが、不動産経済研究所が2018年4月に発表した「超高層マンション市場動向」によると、18年以降に完成を予定している超高層マンションは全国で294棟。10万8757戸になるという。首都圏では新しく建設されるマンションの4戸に1戸は、タワーマンションになる予定だ。

「これだけタワーマンションを増やしてどうするんでしょうか。建設することでゼネコンが儲かり、住民が増えることで自治体が潤う。けれども、タワマンには負の側面が大きいのです。国交省や厚生労働省は規制を検討すべきですよ」

 と警鐘を鳴らすのは、この6月14日に『限界のタワーマンション』(集英社新書)を刊行した不動産ジャーナリストの榊敦司氏である。榊氏は、主に首都圏のマンション市場に関する様々な分析や情報を発信している。主な著書に『2025年東京不動産大暴落』(イースト新書)、『マンション格差』(講談社現代新書)などがある。「ビートたけしのTVタックル」など多くのテレビやラジオに出演している。

「負の側面で最も大きいのは、子供を育てるリスクですね。タワマンは、部屋から出てエレベーターで数分待たされ、地階へ降りて敷地外へ出るまで5分ほどかかります。エレベーターで待つのが嫌で、外出が減ってしまうのですよ」

 子どもが外出しなくなると、どうなるのか?

「外に出れば、雨が降れば濡れるし、植物がどのように育つのか観察することができる。鳩がフンをするところを見たり、川で魚が泳ぐところを見たりして自然にふれれば、想像力が身についてきます。プロ家庭教師集団・名門指導会の西村則康代表は、タワーマンションの上層階に暮らす子どもは、成績が伸びにくいと語っています。その原因は外に出たがらないからというのです。小学生の学習には、イメージが不可欠。子どもは自分が体験したことや見たものでないとイメージわかない。イメージができないと頭の中に知識が入りにくいし、そもそも問題を理解できないこともある。だから、実体験の乏しい子は、成績が伸びにくい、と西村氏は分析しています。タワマンの上層階は、高収入の人でないと住めないので、その子どもは遺伝子的に優秀な子が多いはずですが、自然にふれないで、マンションの部屋に閉じこもってテレビやゲームを見て育っているので想像力が働かなくなったわけです」(榊氏)

 さらに、外出が減ると、近視になりやすいという。

「慶応大学医学部眼科教室の鳥居秀成医師は、太陽光の中の紫色の光、バイオレットライトが近視を抑制する作用があることを発表しています。この光はUVカットで跳ね返されてしまうので、UVカットの窓ガラスであれば、バイオレットライトは室内には入ってきません」(同)

 ヨーロッパでは、高層階は子どもを育てるのにふさわしい環境ではない、という考え方が定着しているといいう。

「実際、イギリスやEU加盟国は、1991年以降、ほとんど高層住宅が建設されていません。その理由として、パール・ジェフコット氏が66年にグラスゴーで行った研究があります。この研究は、『Homes in high flats』という書籍にまとめられていますが、その中でジェフコット氏は、就学前の子どものいる家族は高層階に住むべきではないと語っています。イギリスでは高層住宅が子どもを育てるのにふさわしい住まいの形態とは考えていないようですね」(同)

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