上皇・上皇后さま「おもてなしの宿」秘話 被災地の「美智子さま」ガッツポーズに涙

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窓を防弾ガラスに

 同じ被災地でも、福島県福島市・飯坂温泉の奥座敷、穴原(あなばら)温泉へは2度訪問されている。とはいえ、1度目は震災前、天皇皇后両陛下の「三大行幸啓」のひとつ、国体ご出席のため。平成7年の第50回大会に臨席されたのである。

「最初にお越しの際は、1年程前に、福島県庁からお話を頂きました」

 と語るのは、「吉川屋」の畠隆章社長。

「宮内庁の方は、『普段のままで、特別な準備はする必要はありません』と仰いましたが、唯一、『執務をするための机と椅子を用意して下さい。それも普通のサイズより1センチ程小さなものを……』というリクエストがありました」

 具体的な準備は半年ほど前から始まり、宮内庁、福島県庁秘書課、そして福島県警の担当者が、それぞれ何度も下見に来たという。宿の側も来たるべき日に備え貴賓室を用意し、壁紙、絨毯、畳などの内装は全て新調。陛下のために机や座卓、座布団、ソファーに寝具、食器類も全て新たに特別注文した。県警の要望に応えて、一部の窓を防弾ガラスに替える念の入れようだった。

 斯様(かよう)に万全の態勢でお迎えした1度目のご訪問だったが、2度目となった平成25年は、被災地激励を目的とした私的ご旅行。ちょうど福島が、原発事故による風評被害に悩まされた頃と重なる。

 やはり、その時のことが忘れられないと、宿の女将・畠ひで子さんは言う。

「桃の一大産地である福島の中でも、宿の近隣で採れる桑折(こおり)の桃は品質の確かさで御所へ献上されてきましたが、原発事故により、『福島の桃は食べたくない』という風評が巷に流れ始めていて、とても辛い時でした」

 ご予定は1泊。翌日は上皇と美智子さまが、桑折町の桃農家を訪ねるのが目的で、2カ月前に県を通して宿泊の予約が入った。備品は、1度目のご訪問後に一式揃えて保管してあったものを活用することができた。

 いざ迎えたご宿泊当日、7月22日は土砂降りの雨だったが、お二人を乗せた車が玄関に到着すると“奇跡”が起きたそうだ。

「大雨が嘘のように、突然、ぴたりと止んで、光がさしたんです」

 そう語るひで子女将は、お二人を、大きな窓越しに片倉山が目に飛び込んでくるような景観が印象的な、貴賓室へと案内した。

 ここで、煎茶とお菓子をお出ししたが、その際にこんなやり取りがあったと振り返る。

「上皇さまは片倉山を見て、思い出されたようなご様子で『前に、こちらに来た時は平成7年ですね』と仰いました。美智子さまが『平成8年じゃなかったかしら』と返されたので、私は『平成7年の福島国体の時でございます』と申し上げたんです。するとお二人で顔を見合わせて、『そうでした、7年でしたね』と微笑まれまして。上皇さまは美智子さまのお言葉を否定するようなことはされず、ただ会話の糸口を投げかけているような、ほのぼのとした雰囲気が伝わってきました」

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