印税収入2億円、74歳「官能小説家」にバブルな生活を止めさせた根本的な原因

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日本を脱出、年収1000万円超え

 書き直しという悪戦苦闘中の最中にも、

「たまに囲まない(麻雀)?」、「今度の土曜日、散歩(ゴルフ)はどうよ?」

 親しい仲間からの誘いである。仕事多忙を理由に断ることも可能だった。だが、昔世話になった恩人などから食事に誘われると、締め切りに追われた執筆中でも、なかなか断りきれない。

 漆原さんは思いきって日本を脱出し、日本に近い東南アジアの某国に仕事場を移した。お付き合いをしていた女性を頼ったのである。電話がかかってこない安ホテルを借り住まいにし、ガンガンに効かせたクーラーの中で、早朝からキーボードを叩いた。

 やがて5作目、6作目、7作目と出版を重ねている間に、漆原さんの固定ファンもできてきた。

 順調な仕事運びで、デビュー10年ほどすると、毎月1冊サイクルの出版になり、年収も1000万円、1500万円と、サラリーマン時代の収入に追いついた。

 大概、官能小説家に入る印税は、1冊の売上につき価格の10%前後である。文庫本は一様に単価が安い700円前後であるから、著者に入る印税は1冊に付き70円になる。1万部が売れると、総額70万円の収入だ。

 ただし、官能小説の文庫本は、再販(増刷)されるケースがほとんどない。そのため、出版社との初版部数の出版契約が、著者の勝負どころ。単純計算して1万部なら70万円、2万部なら2倍の140万円になるからだ。文庫本が売れるかどうかは、表紙カバーのデザインが大きく影響することがあるらしい。

 漆原さんの場合、太っ腹な出版社によっては、初版2万部の契約があった。むろん、その逆の7000部、5000部もあったらしい。

 当然、印税が多いことに越したことはないが、漆原さんは体調の調子がよく、気分も快適だと、パソコンの前に向かえば、カイコが糸を吐くように文章が出てきた。書き始めたら、結末をどうするかなど考えない。キーボードを叩く両指が、漆原さんを官能小説の世界に導いてくれた。

 問題は官能小説の「アンコ」に当たる男女の“からみ”部分である。通りいっぺんの表現や同じことを書いていては、読者が離れてしまう。特に男女性器の描写やベッドシーンは、プロの腕の見せどころである。随分と神経をすり減らした。

 同業者から、

「原稿を書いていて自ら勃起するような作品なら、官能小説として完成度が高い」

 というアドバイスを、いつも胸に刻んでいたという。

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