「脂質異常症」の基準が欧米で大幅緩和 日本への影響は?

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取材・文/段勲(ジャーナリスト)

 体内に流れる4・6リットル(体重、60キロ計算)の血液は、命をつなぐ大事な生命線。心臓からその血液を、身体にくまなく運ぶ優れものが動脈という血管である。

 部位によっては直径3センチと太い動脈に、異変が生じると厄介な病気が発症してしまう。「脂質異常症」(2016年、厚労省の調査で206万人)がその一つである。

 かつて高脂血症の病名がついていた「脂質異常症」とは、動脈の内側に「こぶ」(血栓)ができ、血液の流れを悪くして動脈硬化を起こす病気だ。動脈硬化は、中高年層を脅かす「生活習慣病」のチャンピオン。中性脂肪やコレステロールの異常値が危険因子である。

 もともとコレステロールは細胞膜の維持や、ホルモンの材料として身体に欠かせない存在だが、その診断基準値は、

「動脈硬化を促進する『LDL―C』(悪玉コレステロール)は140mg/dl、以下。動脈硬化を予防する『HDL―C』(善玉コレステロール)は40mg/dl、以上」(日本動脈硬化学会=動脈硬化性疾患予防ガイドライン)

 と、されていた。

 この基準値を超えた患者は医師から、治療指導として食事療法や運動療法が勧められ、またはスタチン系やフィプラート系の薬物治療が行われてきた。治療を怠ると最悪、「心筋梗塞」や「脳梗塞」など、命を奪いかねない血管系の病気を招くからである。

 ところがこの診断基準が大きく改訂されることになった。世界心臓病会議部会長などを歴任している東邦大学医学部の東丸貴信名誉教授がこう言う。

「欧米の医学界で脂質異常症の治療ガイドラインが改訂されまして、日本の医学界も目下、見直している最中です。少し緩くなりましたが、でも改訂の新基準を患者さんは、どのように受け止めるかでしょう」

 実際、どのように改訂されたのか。「脂質異常症」の診断基準が、「HDL―Cは70mg/dl以上、LDL-Cは190mg/dl以下」にされたのだ。少し緩くなった感じである。欧米では「脂質異常症」患者の過去の医療統計などを吟味し、数値を緩めても安全と判断したようだ。

 しかし、東丸名誉教授は、

「安心しないで、個別の健康管理が、それだけ厳しくなったと思ってください」

 と、警告している。

取材・文/段勲(ジャーナリスト)

週刊新潮WEB取材班

2019年4月15日掲載

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