大人気「チコちゃん」1周年 名物プロデューサーが語った番組制作の“極意”

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再放送で本放送の視聴率も上昇

 撮影現場も「チコちゃんのCG合成など、実は大変なのではないか?」と想像してしまうが、そんなことはないという。

「もちろんCG班の皆さんが、現場で大変な汗をかいてくださっているのは重々承知しています。とはいえ、撮影で苦労することはそんなにはありません。実はテレビ番組は、“簡単に撮影できる”ということも極めて大事です。しっかりとした番組のフォーマットを設計すれば、スタッフで作り方を共有することは容易になります。全員の目標が明確になっているわけですから、良い意味で流れ作業的な番組制作が可能になります」

 これまでの番組制作における反省点を踏まえ、今回はしっかりと対応策を構築して企画を固めた。とはいえ、ここまでのヒットを成し遂げた“勝因”となると、やはり「NHK」という看板が大きかったようだ。

「どこかの民放で制作させてもらっても、それなりの数字は出たかもしれません。ただ、当たり前の番組として見られてしまった可能性がありますね。5歳の女の子が『ボーっと生きてんじゃねーよ!』と叱っても、民放だと視聴者の皆さんは『いつもの感じね』と流したかもしれない。一方、NHKなら、相当なインパクトが生まれるのではないかと前から予測していました」

 チコちゃんは「ボーっと生きてんじゃねーよ!」とゲストを叱るが、視聴者に暴言を吐くわけではない。「だからこそNHKでも受け入れられた」と小松氏は解説する。

「ある意味で、ゲストの皆さんには、視聴者の生贄になってもらっているわけです(笑)。ただ、チコちゃんが怒る対象が出演者でも、それは視聴者の皆さんにも自分事として伝わるよう設計しているつもりです」

 この辺りの絶妙な番組設計が、ヒットメーカーの本領発揮ということなのだろう。

 視聴者の声としては、SNSを中心に「NHKだからCMがないのが本当に嬉しい」という声が多い。「“CM跨ぎ”の過剰な演出は辟易する」というわけだ。だが小松氏は「VTR番組の場合は、CMの有無は、さほど演出に影響を与えないと思います」とクールだ。

「前提条件として、NHKさんは視聴者の皆さんに放送受信料の負担をお願いしています。そして民放も、“リアルタイムでCMを見てもらう”という負担をお願いしているんです。お金と時間の違いはありますけど、本質は一緒です。その上で、実はコーナーとコーナーの変わり目にはCMがあったほうが便利なんです」

 実際に番組を見ると、「チコちゃん」でもコーナーとコーナーの間にロゴが表示されるなど、CMのような効果を狙った演出が行われていることに気づく。これを小松氏は「番組に句読点を打つ」と表現する。

「NHKでもCM的な句読点は必要です。民放にいた人間として、CM跨ぎの問題を、僕は深刻に捉えていません。確かにCM前に煽って、CM中にチャンネルを替えないでもらうという演出は、僕もします。『タメ』として皆さんが楽しみに待つ『間合い』が必要と思うこともある。CMが終わって、実際に面白い場面が始まれば、視聴者の皆さんは満足してくれると思うんです。CMがあけたらつまらない場面だったからこそ、皆さんは怒っているのではないでしょうか?」

 むしろNHKらしさという視点では、「再放送で火が付いた」ことのほうが、小松氏には驚きだったようだ。

 NHKは視聴者の見逃し対策のため、丁寧な再放送を行っている。そして「チコちゃん」は、金曜の19時57分から本放送され、翌土曜の8時15分に再放送される。
 
 この再放送される「チコちゃん」だが、前番組は「連続テレビ小説」なのだ。8時から15分間の放送だが、視聴率は20%を超える。「チコちゃん」がブレイクした原因として、“朝ドラ”の好調を挙げる専門家の意見も少なくない。

「私もフジで編成に携わったことがあります。ポイントは“朝ドラの視聴者”と“チコちゃんの視聴者”がフィットするか否かですが、NHKさんの判断はさすがでしたね。また従来は『再放送で人気が出ると誰もが再放送を見てしまう。本放送のお客さんが減ってしまう』という考えから僕たちはなかなか離れられない。ところが、視聴機会が増加することで番組に注目が集まり、『チコちゃん』では金曜も土曜も視聴率が上昇するということを体験できました。これは本当に貴重なことだと考えています」

 今後の目標は、ずばり“長寿番組”だ。

「番組制作に携わる者なら、誰でも長寿番組を目標にします。そのためにも視聴者の皆さんの期待を裏切らないよう着実に、調子に乗らず地道に、しっかりと作っていくことが大事かなと思っています。幸いなことに、これまで放送したネタのうち、僕が事前に知っているものは1つもありませんでした。常に新鮮な驚きを提示できているという自負はあります。制作現場が緩んでしまったり、マンネリ化してしまったりする危険性は少ないはずなんです」

 インタビュー中、小松氏は何度も「語り口のバリエーション」の重要性を指摘していた。そんな彼らしく、現在はコーナーのリニューアルに奔走中だ。題して何と「働き方改革のコーナー!」だという。

「スタジオで1ネタ減らして、司会の岡村隆史さん(48)とチコちゃんだけでVTRを見るコーナーを新設します。しかも、チコちゃんは着ぐるみで、顔を映しません。これはCGスタッフの皆さんがGWの10連休をしっかり取ってもらうため、つまり働き方改革のため(笑)。私たちの業界も働き方改革で大変ですが、それも『チコちゃん』は面白がることができるということをお見せできればと考えています」

 元号も「平成」から「令和」に変わった。平成30年4月に本放送が始まり、大人気で1周年を迎えた4月に令和が発表————。こんな“節目”を迎えたテレビ番組は、そうないだろう。令和の時代を高い視聴率で切り開いていく予兆かもしれない。「チコちゃん」は長寿番組の実現に向け、運も味方しているようだ。

週刊新潮WEB取材班

2019年4月7日掲載

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