巨人vs阪神戦の注目は主砲対決 V9時代、私が4番を打った日【柴田勲のセブンアイズ】

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 巨人が“鬼門”のマツダスタジアムで2勝1敗と勝ち越し、2017年7月5日以来のことで、ツキもあったが、まずは上々のスタートを切った。これで少しは苦手意識を払拭できたのではないか。苦手意識があると、戦う前からどうしても気持ちが勝ち負け「四分六分」に傾いてしまうものだ。そういう意味でも大きい。

 開幕戦で4三振した丸佳浩外野手にも3戦目で初安打が出た。しかもタイムリーだった。2戦目では3四球を選んですべて得点に絡んだ。昨季、4割6分8厘という12球団トップの出塁率をマークしたように、元々選球眼はいい。打てないと、焦ってボール球に手を出してしまうものだが、冷静だった証拠でもある。ヒットを打てなくてもチームに貢献できる見本だ。前回、話したけれど、なによりの良薬となる。これで乗っていけるのではないか。

 2日からは東京ドームに阪神を迎えての3連戦。どちらも開幕3連戦を勝ち越している。

 注目したいのは両チームの4番だ。巨人がプロ5年目の岡本和真内野手(22)なら、阪神は3年目の大山悠輔内野手(24)だ。大山は03年の濱中治(現打撃コーチ)以来、16年ぶりの生え抜き選手による開幕4番を務めた。

 阪神・矢野燿大監督はひょっとすると、「第二の岡本」を思い描いているのかもしれない。昨季、巨人・高橋由伸監督は岡本に中盤から4番を任せ、不調時でも目をつぶって起用を続けた。その結果が一気のブレーク(※注1)となった。

 大山も昨季の終盤に4番を経験したが、矢野監督もオープン戦から4番で使い続けている。和製大砲に育てようとしているのだろう。

 この2人、開幕3連戦ではともに2安打で1打点の成績だった。もちろん、ノーアーチだ。

 阪神が開幕3連戦で挙げた得点は4。投高打低の傾向だが、4番経験者の3番・糸井嘉男、5番・福留孝介にはさまれた大山がカギを握る。

 岡本も同様だ。1番・吉川尚輝、2番・坂本勇人、3番・丸の打線が機能して、岡本が働けば大量点が取れる構図になる。こうなると5、6番にもチャンスが回ってくる。打点王をこのあたりの打順が獲得する可能性もある。

 岡本の長所は思い切りの良さだ。ライトにコツンなんてバッティングは不要だ。広島3連戦では6三振したけど、これからも自信を持ってバットを振ってほしい。

 2日からのGT3連戦。岡本と大山。原辰徳監督と矢野監督は期待とともに、我慢となる。当然のことだが、4番が活躍すればチームは上昇カーブを描く。

 爆発するか、それとも……。2人から目が離せない。

 余談になるけど、実は私も一度だけ「4番」を打ったことがある。1969年7月3日、甲子園での阪神戦だった。いまから50年前になる。

 先発は左腕のエース江夏豊だった。この年、巨人はV5を達成したが、序盤から好調だった阪神に苦しんだ。特に江夏には開幕から3試合連続完封負けを喫していた。

 ロッカーでスタメンを聞いていたら、「1番・レフト、高田(繁)」、「2番・セカンド、土井(正三)、「3番・サード、長嶋(茂雄)」……「アレッ」、スタメン落ちかと思ったら、「4番・センター、柴田」のアナウンスが聞こえた。「エエッ!」と驚くしかなかった。さらに「5番・ファースト、王(貞治)」と続いた。

 4番での起用。かといって、江夏に強かったワケではない。むしろ逆で開幕から11打席ノーヒットで、しかも4三振。現役通算でも2割くらいだ。私だけではなく、他のナインもからっきしダメだった。私は制球力、球威などいまでも江夏こそ、経験した投手の中で総合力ナンバーワン(※注2)だと思っている。

 王さんと長嶋さんを分断して、私をはさむ。川上哲治監督の“奇策”に近いもので、後で分かったけど、ONへの気分転換だった。開幕から2人は不調だった。

 これが当たった。高田が先頭打者本塁打を放ち、土井さんが四球で出塁、長嶋さんは凡退したが、右打席で私が左翼へ2ランを放った。なにしろ50年前、真っすぐだったか、それともカーブだったか。ポール際だったのは覚えている。この試合は4対1で快勝した。私は2安打、2盗塁だった。以後、ONは復調して、チームも波に乗った。

 V9時代、開幕戦すべて長嶋さんが4番に入った。シーズン中の3、4番はONが多く、NOは少なかった。もちろん、時にON以外に4番を打った打者はいたけど、それはONが絶不調か負傷をした場合だった。この2人が健在であるにもかかわらず、巨人の4番を打ったのは私だけで、いまでも少し自慢している。

 ヒーローインタビューを受けて、帰りのバスに乗り込んだら、川上さんが「よくやった、よくやった」と握手してきた。これにもビックリした。こういうことをするタイプではない。自分の策が的中してよほどうれしかったのだろうと思った。

 調子に乗って、「明日も4番ですか?」と聞いたら、「バカ言うな、今日だけだよ」と言われた。

 つい余談が長くなってしまった。巨人のV9時代、こんな4番の起用方法もあったんです。

※注1 岡本はチームでただ1人、全143試合に出場。打率・309、33本塁打、100打点をマークした。入団から3年間は1本塁打だった。

※注2 この年、江夏氏は入団3年目。23試合に先発して15勝10敗で防御率は1・81。前年の68年は37試合に先発し25勝12敗で防御率2・13。シーズン奪三振は401でこれはNPB記録。

柴田勲(しばた・いさお)
1944年、2月8日生まれ。神奈川県・横浜市出身。法政二高時代はエースで5番。60年夏、61年センバツで甲子園連覇を達成し、62年に巨人に投手で入団。外野手転向後は甘いマスクと赤い手袋をトレードマークに俊足堅守の日本人初スイッチヒッターとして巨人のV9を支えた。主に1番を任され、盗塁王6回、通算579盗塁はNPB歴代3位でセ・リーグ記録。80年の巨人在籍中に2000本安打を達成した。入団当初の背番号は「12」だったが、70年から「7」に変更、王貞治の「1」、長嶋茂雄の「3」とともに野球ファン憧れの番号となった。現在、日本プロ野球名球会副理事長、14年から巨人OB会会長を務める。

週刊新潮WEB取材班

2019年4月2日掲載

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