米朝交渉物別れでも、実は“ほくそ笑む”文在寅 韓国が北の核を使って日本を脅かす最悪シナリオ

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文/鈴置高史

 2月27、28日にベトナムの首都ハノイで開かれた2回目の米朝首脳会談は物別れに終わった。北朝鮮の非核化はますます遠のいた。それに“ほくそ笑む”のが韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権だ。

 2月28日の首脳会談の直後に会見したドナルド・トランプ米大統領は「何らかの署名をすべきと考えていた。しかし今回はその選択をとらないことにした」と述べ、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との間で何の合意もできなかったことを認めた。

 その理由については「金正恩委員長はある程度の非核化の用意は示したが、制裁の完全な解除を求めてきた」と、条件が折り合わなかったと説明した。

 ただ、「会談は大変に友好的だった」「今後も話し合いを続ける」と、決裂したわけではないと強調した。

 北朝鮮からすれば、会談にはそれなりの成果もあった。制裁を解除させるには至らなかったが、非核化に関する首脳協議を開いたことで「核保有国」の地位を米国に事実上、認めさせたからだ。核開発を続けようが米国に「お仕置き」される懸念もグンと減った。

 トランプ大統領は会見で「今後も北朝鮮が非核化に応じない場合、経済制裁を強化するつもりか」との質問に「制裁強化に関しては言いたくない。北朝鮮でも多くの人々が生活しているのだ」と明確に否定した。米韓合同演習に関しても「カネがかかる」と実施に消極的な姿勢を打ち出した。

 北朝鮮はこれまで5度も「核を放棄する」と約束しては破ってきた(掲載図「非核化の約束を5度も破った北朝鮮」参照)。2018年6月、シンガポールで米国に約束した「非核化」もホゴになる可能性が高まった。

「北の核は民族の核だ」

 北朝鮮との和解路線を掲げる文在寅大統領も「これはこれでよし」と考えているだろう。確かに、制裁解除をテコに対北支援に乗り出すという作戦は頓挫した。しかし今回の「非核化の失敗」は、和解路線に批判的な韓国の保守派の地歩を突き崩すからである。

 非核化は困難――との認識が深まるほどに、韓国人の間で「北朝鮮の核は怖くない」との心情が高まる。保守系紙・朝鮮日報のキム・グァンイル論説委員は、米朝首脳会談の前から「ストックホルム症候群に罹った韓国人たち」(2月15日、韓国語版)と、警鐘を鳴らしていた。

 見出しの「ストックホルム症候群」とは、凶悪事件で長期間、人質となった人々が犯人に共感を抱く状況を指す。韓国人、ことに国会議員が真っ先に北の核の心理的な人質になったと、この記事でキム・グァンイル論説委員は指摘した。

 金正恩委員長の非核化の意図を疑うナンシー・ペロシ米下院議長に対し、2月に訪米した韓国の議員らが、「経済発展を望んでいるだけだ」「親米国家になれば米国の利益になる」などと口々に北朝鮮を擁護したからだ。

 韓国人は単に「核の人質」となるのではない。核を持つ「凶悪犯の共犯」に回るだろう。もともと韓国人は「北朝鮮は同族の韓国人に核は使わない」と思いたい。

 そこに北朝鮮から「北の核と南の経済力を合わせれば最強の民族共同体ができる」とささやかれている(拙著『米韓同盟消滅』第1章第4節「『民族の核』に心躍らせる韓国人」参照)。

「北の核」が除去できないのなら、その共同所有者になったほうがいい、と考える韓国人が、一気に増えるだろう。

 キム・グァンイル論説委員も記事の末尾で「北の核は我々の核ではないか」と韓国人が言い出したと書いている。

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