米朝交渉物別れでも、実は“ほくそ笑む”文在寅 韓国が北の核を使って日本を脅かす最悪シナリオ

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制裁緩和に動く左派

 もっとも左派にも泣き所はある。今回の米朝首脳会談でも、北朝鮮への経済制裁が緩和される見通しが立たなかったからだ。

 石炭などの輸出を制限された北朝鮮は外貨不足に陥り、食糧輸入がままならない。これに2017年、2018年と2年連続の農作物の不作が追い打ちをかける。

 関係者によると、住民の間に「核を手放すことで経済制裁を解除してもらおう」との声が出ている。金正恩政権にすれば、米国を誤魔化して核開発を続けることに成功しようと、打倒運動が起きては元も子もない。

 だから韓国の左派は、制裁をやめさせようと必死になる。文在寅大統領の本音を語ると見なされる文正仁(ムン・ジョンイン)大統領統一外交安保特別補佐官は、読売新聞に対し以下のように語った。2月18日付の同紙が報じた(「[インタビュー米朝]工程表部会できれば成功 文正仁氏」)。

《平壌(ピョンヤン)への連絡事務所の設置や、法的拘束力の弱い朝鮮戦争の終戦宣言だけで北朝鮮は満足しないだろう。/北朝鮮に外貨収入をもたらす開城(ケソン)工業団地と金剛山(クムガンサン)観光など南北協力事業を国連制裁の例外措置として認めなければ、非核化に消極的になるだろう。》

「北朝鮮にドルを渡さないと核はなくならないぞ」と露骨に要求したのだ。この脅しが今後も続くのは間違いない。

韓国のミサイル潜水艦を潰せ

 こんな意見に、安倍晋三政権は賛同しないだろう。それどころか「北の核武装を幇助する韓国を抑え込むべきだ」との声が、日本の指導層の間から上がり始めた。

 文在寅政権は2020年、弾道ミサイルを発射するための3000トン級潜水艦を実戦配備する。北朝鮮は核弾頭を完成したが、それを発射する潜水艦を持たない。

 韓国の弾道ミサイル潜水艦と合わせ、南北朝鮮は「民族の核武装」を完成するつもりであろう(拙著『米朝同盟消滅』第1章第4節「『民族の核』に心躍らせる韓国人」参照)。

 日本に向けられる「朝鮮民族の核」を阻止するには、経済制裁によって北の核ミサイルを放棄させると同時に、ミサイル運搬手段を韓国が持てないよう、圧迫を加える必要が出てきた。

 朝鮮半島出身の労働者――いわゆる「徴用工」裁判で、日本政府は韓国に対し対抗措置を検討中だ。こうした具体的な案件で「報復」するだけではない。「南北朝鮮の核武装」を阻止するためにも、韓国に対する経済制裁が検討されていくことになる。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班

2019年3月1日掲載

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