話題の弁護士ドラマでは描かれない刑事司法の「不条理」

社会2019年1月28日掲載

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 新春から民放三社で弁護士を主人公とするリーガルドラマがスタートして話題となっているが、99.9パーセントの被告が有罪になるという、日本の異様な刑事司法のなかで、14件もの無罪判決を勝ち取っている異色の弁護士、今村核氏のことをご存知だろうか。その今村弁護士に取材して番組『ブレイブ 勇敢なる者』「えん罪弁護士」を制作したNHKエデュケーショナル・ディレクターの佐々木健一さんと、保護者の「嘘」によって窮地に追いやられた教師たちの苦闘を描いたルポ『でっちあげ』『モンスターマザー』の著者・福田ますみさんに語り合ってもらった。TVドラマでは描かれない、日本の司法制度の歪みとは何か――。

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福田 私が取材したふたつの事件では、濡れ衣を着せられた教諭や学校の弁護を買って出た弁護士さんに、山のように資料を提供してもらってずいぶん助けてもらいましたが、裁判は弁護士の力の入れ方によってまったくちがう結末を迎えてしまうのだと実感しました。しかも依頼人の無罪を信じて弁護するということは「殺人教師の肩を持つのか」とか「痴漢を弁護するのか」と世間から厳しく批判されるということ。『モンスターマザー』の弁護士には嫌がらせの電話がかかってきたり、長年の顧客を失ったりということもあったそうです。

佐々木 ぼくが取材した今村核弁護士にも深い葛藤がありました。冤罪を証明するのに手間暇ばかりかかる案件が彼の元にくるんです。刑事事件の弁護ばかりしていると周囲からは変人扱いされますし、民事裁判に比べて金銭的にも報われない仕事です。今村弁護士は誰も滑ったりしないごく普通の廊下で何度も足を滑らせたりするんですが、真相究明のためにひたすら歩いて、新しい靴も買わないので、靴底がツルツルになっていたんです。

福田 無罪を立証するために火災の再現実験をしたりして、真相を求める情熱が凄まじい。「疑わしきは罰せず」が原則のはずなのに、日本の司法制度では被告側が無罪を立証しないといけないという欠陥があって、それをやむをえず引き受けている。

佐々木 そうした実験の費用だって弁護団の持ち出しなんです。火災実験には百万円以上かかっていますが、国民救援会などのカンパで捻出したそうです。

福田 いまならクラウド・ファンディングが使えるかも。

佐々木 これからはそういう発想をもつ弁護士も出てくると思います。でも裁判で冤罪を証明できても、そういった費用がかえってくるわけではない。クラクラするような不条理です。いまのままでは、冤罪が疑われる事件に手を挙げる弁護士がいなくなってしまう。

福田 冤罪ではない案件だって舞い込みますよね。今村弁護士はどうやってそれを見極めるんでしょうね。

佐々木 本当はやったんだけど、やってないという人も当然いるでしょうね。彼はすぐに判断しないで、まずは資料を送ってほしいと言うそうです。そして徹底的に精査する。依頼を引き受けるべきか、真相を見極める手間を惜しまないんです。

福田 でもなんで今村弁護士のようなすごい実績がある人がこれまで知られていなかったんでしょう。

佐々木 比較的世間に知られていない小さな事件が多かったからかもしれません。無口で一見、偏屈者に見えますし。しかしあの葛藤を抱えながらも絶対に妥協しない執念は人並みではありません。(2に続く)

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佐々木健一(ささき・けんいち)1977年札幌生まれ。早稲田大学卒業後、NHKエデュケーショナル入社。主な制作番組に『ケンボー先生と山田先生 辞書に人生を捧げた二人の男』『哲子の部屋』『Mr.トルネード』『えん罪弁護士』『硬骨エンジニア』など。著書に『辞書になった男』『神は背番号に宿る』『雪ぐ人 えん罪弁護士 今村核』などがある。

福田ますみ(ふくだ・ますみ)1956年横浜市生まれ。立教大学社会学部卒。専門誌、編集プロダクション勤務を経て、フリージャーナリストに。犯罪、ロシアなどをテーマに取材、執筆活動を行なっている。著書に『スターリン 家族の肖像』『でっちあげ』『暗殺国家ロシア 消されたジャーナリストを追う』『モンスターマザー』などがある。