校長を「殺人」で告訴! 県・先輩生徒には1億円を賠償請求 〈学校を破壊するモンスターマザーの傾向と対策(2)〉

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 丸子実業高校(現・丸子修学館高校)1年生でバレー部員の高山裕太君(16)が自室で首吊り自殺をはかったのは、2005年12月6日のことだった。母・高山さおり(仮名)は、自死の原因が学校にあったことを訴え、校長を「殺人罪」で刑事告訴する。しかし、校長は不起訴となり、自殺における学校の責任も完全否定。反対に“原告の態度などが裕太君にストレスを与えていた”とさおりの責任を示唆する判決が下される結果となった。

 裕太君は、死の直前の05年の8月末に家出をしている。それを受け、さおりは担任の立花実(仮名)やバレー部部長の教師を、激しく罵倒し、謝罪文を校長に要求する。断られると「お前は馬鹿だ、人殺しだ!」と電話で怒鳴った。裕太君は9月5日保護されたが、後に、教師たちにはこう打ち明けていた。「お母さんが怖くて家に帰りたくなかった」。『モンスターマザー 長野・丸子実業「いじめ自殺事件」教師たちの闘い』(新潮社刊)の著者、福田ますみさんが描く“学校を破壊する怪物”の実態とは。

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 その後も、さおりの暴走は収まらなかった。

 息子の登校を止めさせた結果、裕太君は、わずか2日間、学校に来ただけで再び不登校となった。

 また、家出と時を同じくして、2年生バレー部員の山崎君(仮名)が裕太君の物まねをしていたことが発覚。同じく山崎君が練習態度を注意した後、裕太君を含む1年生全員の頭をプラスチックのハンガーで叩いたこともわかった。

 状況からいずれも、いじめや暴行とは考えられなかったが、ほめられた行為ではない。そこで教師たちは、部員全員を集めて厳重に注意したのである。

 すると、さおりの攻撃対象はバレー部へと移る。

 山崎君の自宅には、「人殺し!」と毎日電話。

「よくバレー続けてられるね。あなたの子供がいじめたから、うちの子は好きなバレーもできず、学校も行かれない。自殺も考えている。あなたたちのことを訴えますからね」

 監督の自宅にも電話を入れている。妻が出ると、

「あなたのだんなのせいで、うちの子はもう口もきけない。おかしくなっちゃったんだよ。どうしてくれんの! 山崎をかばってうそ言って」

 当時14歳だった監督の長男にもこうわめいた。

「あなたのお父さんのせいで私の息子は自殺しようとしている。もし死んだら、あなたのお父さんのせいだ。人殺し! お前ら、最低家族だな」

 マネージャーを務める2年生部員にも、殴り書きのファックスが送られてきた。

「病気のゆうたをよってたかってみんなでいじめた!!子供の気持ち何も考えない学校、バレー部全員の積(ママ)任だ!!」

「私も子供も病気なのに口先であやまっても全部うそのこう動だ!! 丸子はくさっている ゆうたの人生をかえせ!!」

 度を越した抗議によって、関係者はみな精神的に参ってしまい、丸子実業は、正常な学校生活が危ぶまれるほどの事態に追い込まれる。そして、家と学校共に居場所を失った裕太君に12月6日、“悲劇”が起こったのだ。

「バックに県や県教委」「警察官もグル」

 事件はその後、前代未聞の展開を辿る。06年1月、高山さおりは、裕太君を殺害した容疑で校長を告訴。続いて同年3月には、長野県、校長、山崎君とその両親を相手取って、1億円を超える損害賠償を求める民事訴訟を起こす。

 これに対して、いじめや暴力は事実無根だとして、バレー部の監督、保護者、部員たちが逆に、さおりを訴えた。さらに校長も、後に、さおりを相手取って、名誉毀損の裁判を起こす。

 結果については先に述べたが、裁判では、さおりの異常性が白日の下にさらされていく。詳細は拙著『モンスターマザー 長野・丸子実業「いじめ自殺事件」教師たちの闘い』をお読みいただきたい。

 この“事件”を振り返って、校長が言う。

「母親への唯一の訴えを自殺という方法でしか選択できなかった裕太君の心情を考えると、いかに母親の責任が大きいかということを再認識せざるをえません」

 そのさおりに取材を申し込むと、

「裁判は真実が通らないんですよ。大多数で決まるんです。バックに県や県教委がいて圧力をかけてくる。警察官もグルですよ」

 と述べた挙句、

「書かないでください!」

「警察呼びますよ!」

 とまくし立て、ドアを閉めた。

「特別読物 学校を破壊する『モンスターマザー』の傾向と対策――福田ますみ(ノンフィクション・ライター)」より

福田ますみ(ふくだ・ますみ)
1956年、横浜市生まれ。立教大学社会学部卒業後、専門誌、編集プロダクション勤務を経てフリーに。2007年、『でっちあげ』で新潮ドキュメント賞受賞。今年3月には「新潮45」連載の「モンスターマザー 長野・丸子実業高校『いじめ自殺』でっちあげ事件」で、「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞した。

週刊新潮 2016年4月7日号掲載

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