愛煙家に朗報? 「ニコチン」でアルツハイマーが防げる 脳細胞を“活性化”“保護”

ドクター新潮 健康 整体

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 煙い、臭い、時代遅れ。目下、喫煙者は「鬼っ子」扱いされている。紫煙をくゆらせているだけで、犯罪者かのような目で見られてしまう……。だが愛煙家だって、時に「夢」を見ることくらいは許されるだろう。ニコチンが、アルツハイマー予防に有効だというのだ。

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「ビルマの竪琴」「犬神家の一族」「細雪」。日本映画界の巨匠、市川崑監督が92歳でこの世を去って十年余。彼は卒寿を超えてもメガホンを握り続けた。心身ともに衰えを知らなかったわけだ。そんな巨星の存在そのものが、次に紹介する「説」を裏付けているのかもしれない。市川監督は晩年まで、たばこのグローバルブランドであるキャメルを1日100本愛煙していたのである――。

〈大阪府・受動喫煙防止条例案 2月議会に提出へ〉(1月10日付読売新聞)

〈たばこ警告表示 30→50%以上〉(2018年12月31日付産経新聞)

“ネタ枯れ”の年末年始も「たばこ報道」は相次いだ。片山さつき大臣が集中砲火を浴びたり、ワイドショーがセクハラ次官の証拠音声を四六時中流したりと、ニュースにも“流行(はや)り廃(すた)り”があるものだが、時を選ばず、たばこは常に狙われている。「たばこ=(イコール)絶対悪」。昨今のこの風潮に便乗すれば、“手軽”に報道できるためもあろう。

 先に紹介したたばこ報道も、前者は大阪府が国の規制より厳しい受動喫煙防止条例案をまとめたことを紹介したもの。また後者は、たばこのパッケージに記載する健康被害警告の表示を、全体の30%以上の面積という現状から50%以上に拡大する方針が決まったと報じたもので、いずれも喫煙者にとってはますます肩身が狭くなる話だ。

 こうして、崖っぷちまで追い詰められている感が漂う愛煙家。そんな「日陰者」のスモーカーたちに向けて、たまには彼らの胸が晴れそうな研究成果をお届けするのも悪くはあるまい。

「たばこに含まれているニコチンが、依存性を伴った毒性の強い劇薬であることは間違いありませんが、私どもはその劇薬であるニコチンを上手く使うことで『脳の活性化』に繋げられるのではないかと考え、マウスによる実験を行いました。すると、ニコチンがアルツハイマー型認知症やパーキンソン病の予防、改善に効果があるとの可能性が示されたのです」

 と、愛煙家がガッツポーズを作って喜びそうな研究報告をするのは、金沢大学の米田幸雄名誉教授(予防薬理学)だ。米田氏は、14年度に公益社団法人「日本薬学会」から薬学会賞を授与された研究者である。

 愛煙家は快哉を叫び、嫌煙家は耳を塞いでかぶりを振りたいであろうこの話の詳細に入る前に、まずは脳と認知症のメカニズムについて押さえておこう。

 認知症に詳しい東京医科歯科大学の朝田隆特任教授が解説する。

「定説として、脳の神経細胞は140億個から160億個あるとされ、最新の研究では1千億個あるとも言われていますが、この神経細胞がネットワークを組むことで、学習や記憶が可能となります。しかし、アルツハイマー型認知症を発症すると、ネットワークを組んだ神経細胞が死滅していく。そのため、大事な記憶が消えてしまったり、それまで出来ていたことが出来なくなったりしてしまうのです」

 この前提を踏まえた上で、改めて米田氏が続ける。

「記憶機能に関係する神経細胞は、それ自身では増殖することができず、壊れてしまったらおしまいという性質があります。そして、アルツハイマーは恐るべきスピードでこの神経細胞を壊し、『記憶のネットワーク』を破壊する。一方、脳の神経幹細胞は、神経細胞に変化することができます。逆に言うと、神経細胞を増やすことができれば、アルツハイマーの予防や、症状の進行の遅延化が理論的には可能になるわけです」

 そこで米田氏らの研究グループは、神経細胞の増殖実験を試みる。

「実験を始めたのは10年頃です。マウスの胎児の脳から神経幹細胞を取り出し、これを0・1μM(マイクロモーラー)から100μMまでの濃度のニコチン溶液に浸して培養しました。すると、ニコチンに浸さない条件下で培養した幹細胞に比べて、15%から25%多い割合で神経細胞に変化することが確認されたのです」(同)

 ニコチンによって「記憶の担い手」とでも言うべき神経細胞を増やすことができる。つまり百害あって一利なしと「ばい菌扱い」されているたばこも、アルツハイマーに効くというのである。

「脳の細胞を保護するように覆っている細胞膜上にはニコチン受容体と呼ばれるものがあり、そこにニコチンが『鍵』として作用することで細胞膜の扉を開き、カルシウムイオンやナトリウムイオンが細胞内に入りこむことができた。これによって、細胞の活性化に繋がったものと考えられます」(同)

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