アメリカでLGBTを嫌悪する巨大組織の正体とは?

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増えるパートナー制度

 千葉市は今月、生活をともにする二人を夫婦と同じような関係の「パートナー」と公的に認める新制度を導入する。この「千葉市パートナーシップ宣誓制度」は、対象をLGBTなどの性的少数者に限らず、事実婚のカップルなども申請できるのが特徴だ。
 市は今月29日にパートナーシップ宣誓証明書交付式を予定しており、HPで宣誓希望者を募集している。

 こうした制度は欧米の先行例を参考にしたものなのは言うまでもない。しかし一方で欧米には、こうした流れに抗い、活動する団体もまた存在することはあまり知られていない。その団体は本拠をアメリカ・イリノイ州に置く「世界家族会議(World Congress of Families)」。
 彼らは決して少数派ではなく、トランプ大統領の岩盤支持層ともなるほどの存在感を示している。

 彼らは一体、何者なのか。長年取材してきた金子夏樹氏(日経新聞記者)の新刊『リベラルを潰せ――世界を覆う保守ネットワークの正体』をもとに紹介しよう(以下、「」内は同書より引用)。

ナチュラル・ファミリー以外を排除

「世界家族会議は日本ではなじみが薄いが、世界各地で隠然たる影響力を持つNGOでもある。『伝統的な家族観を守る』という主張を掲げ、その賛同者は世界に広がっている。米国のジョージ・ブッシュ(子)元大統領はこの団体にあてたメッセージで、『あなた方の努力は世界をより良くしています』と称賛している。

 世界家族会議が掲げる『伝統的な家族観』とは聞こえは良いが、言外に込められた意味があることに注意が必要だ。伝統的な家族は男性と女性による結婚とその間に産まれる子どもという、狭い意味での家族に限られる。同団体がホームページなどに掲げるロゴは、男性と3人の子どもたち、そして女性が手をつないだものだ。よく見ると女性はもう1人の子どもをお腹に宿しているようにも見える。世界家族会議はこの家族を『ナチュラルファミリー(自然な家族)』と表現し、これのみを各国の政府が守るべき対象とする。
 ナチュラルファミリーを絶対視すると同時に、世界家族会議は、同性カップルを排除すべき対象とみなしているのだ」

 この世界家族会議は、アメリカ最大の宗教勢力であるキリスト教右派の思想を海外に広める組織だという。彼らは聖書を根拠にLGBTの権利拡大を嫌い、人工中絶にも反対し続けている。

聖書に書いてある

「キリスト教文化の伝統を大事にしてきたかつてのアメリカでは、同性愛は最悪の性行為の1つとみなされてきた。その根拠も聖書の言葉にある。『女と寝るように男と寝るものは、2人とも憎むべきことをしたので、必ず殺されなければならない。その血は彼らに帰するであろう』(旧約聖書レビ記20章13節)。

 旧約聖書の創世記で神が男(アダム)と女(イブ)を創り出したことを重視し、男性と女性は結ばれて一心同体になるととらえるのだ。『神はアダムとスティーブンを創造したのではない』(米国の保守系牧師)というわけだ」

 こうした考え方は、キリスト教の専売特許ではない。イスラム教の聖典「コーラン」にも「2人の男が互いに不道徳な行為を行った場合、その両方を罰する」という記述がある。
そのため宗教右派たちは反リベラルを旗印に、国や宗派といった枠を超えて団結している。
 彼らの結集の場となっているのが「世界家族会議」なのだ。実際に、北米や欧州・ロシアを中心に、35の有力NGOが世界家族会議のパートナーとなり、ロシアのプーチン政権とも緊密な関係を保っている。
 実はトランプ大統領とプーチン大統領との接点は、こうした保守的な思想にあるという見方もあるのだ。

 欧米の人権団体による憎しみを世界に輸出する団体といった批判も強いものの、この世界家族会議に集まる予算規模は年間で総額2億ドルを超えるという。

「台湾でも2017年から同性婚の容認をめぐる議論が高まるなど、対立の火種はアジアにも波及しています。『世界家族会議』は間違いなくアジア、そして日本を視野に入れているはずです」と金子氏は警鐘を鳴らしている。

デイリー新潮編集部

2019年1月21日掲載

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