紅白歌合戦出演者でNHKが最も心配した?多動性侍・宮本浩次

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 新年早々、何を書くか悩んだ。年末29日の村上春樹ドラマを絶賛すべきか。晦日の江戸川乱歩ドラマのハライチ・岩井勇気を褒めちぎるべきか。大晦日の高嶋政宏の変態っぷり&ゆりやんレトリィバァの脱ぎっぷりを評価すべきか。いや、やはり年明け・元日の老害噺家が女優に気遣い、女芸人をこきおろす前近代的な構図が1ミリも面白くなくて辟易した大喜利を叩き斬るか、香川照之のモノマネ(平泉成の声音)を讃えるべきか、浅利陽介の特命係卒業を祝うか、シソンヌの「冷房が隠し味」コントを賞賛するか。あ、番組名省略ね。迷った挙句「紅白歌合戦」に。

 演歌勢を排除一歩手前まで追い込み、ニューミュージック系(死語)大御所を誘い込み、2・5次元系を増やし、ジャニーズ事務所と秋元康に最大限の接待を。「歌合戦なのに口パク」は、すでに「日本の伝統文化」として飲み込んだ。むしろ本物の歌手と並べることで「団体芸の様式美と事務所の政治力」を知る、いい機会だ。たとえ持ち歌を歌えなくても、決まった曲しか歌わせてもらえなくても、優れた歌唱力をもつ本物の歌手は人を虜にするし。

 加齢によって声が出なくなった歌手には、応援団をつけるなり、神輿に乗っけて担ぐなり、キーをこっそり低くするなり、最大限の配慮と思いやりを。

 NHKがバズったと自負する番組のキャラを使い倒し、民放局のドラマ主題歌やニュース番組テーマ曲をしれっと集め、スポーツもギネスも災害もデジタル技術もまるっと押し込んだ、紅白ならぬ「茫漠」歌合戦。

 多様化しすぎて混沌。全体としては「わや」の印象が強いのだが、それこそ平成っぽいなと思った。平成は、一括りにするのが難しい30年。「テレビを通して皆がまんべんなく知っている」が激減し、「テレビとは別の場所に多種多様な熱狂的執着が散在する」時代。

 なんつって、なんとかまとめようとしても、ちっともまとまらねぇから、私感で紅白を振り返ってみる。

 NHKが最も心配していたのが、宮本浩次ではないかと推測。予測不能で多動性の宮本と、妙に目が据わった椎名林檎のコンビは「昭和の映画でよく見たシャブ中」っぽくて、ドキドキした。いい意味で。

 でも大丈夫。ソツもないが情もない、鉄壁の司会・櫻井翔が、たどたどしい広瀬すずに舌打ちしながら完璧に回すから。総合司会のウッチャンはたぶん一番楽しんだと思う。歌って踊って、三津谷寛治キャラでダメ出しして、昔のコントのキャラ(ミル姉さん!)まで復活できて。感無量(代弁)。

 ファンにもみくちゃにされる構図が悪夢レベルの純烈、筋肉とドヤ顔とサックスで再浮上した武田真治、極上の歌とダンスだがきかんしゃトーマスっぽい三浦大知、おげんさんコーナーにて一挙手一投足がショーパブ風味の宮野真守、頸椎が心配なYOSHIKIに、実在したのか米津玄師って。

 なんとなく白組のカオスが強烈すぎた感が。あ、紅組・丘みどりのお陰で「鳰」という字を初めて知ったよ。にお。カイツブリ。へえ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2019年1月17日号掲載

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