竹下通り暴走男、転機は“父の死”と“進学の挫折”? 近年増加する無差別殺傷事件

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措置入院が必要なレベル

 車で人ごみの中に突入し、無差別に人を傷つける――。同様の事件で人々が真っ先に頭に浮かべるのは、2008年に起こった、加藤智大による「秋葉原無差別殺傷事件」であろう。

「平成に入った頃から、個が重んじられる時代になり、それに伴って“自分はもっと幸せになれるはずだ”と鬱憤をため込み、ネットをその発散の場とする人が増えた。加藤智大の事件は、そうした欲求不満を抱える人たちに“こんなやり方があったのか!”と衝撃を与えるものでした」(評論家の唐沢俊一氏)

 実際、自らの境遇や人生に不満を抱く犯人が公共の場で無差別に人を殺傷する事件は最近、毎年のように起こっている。昨年6月、東海道新幹線の車内で複数の乗客が無職の男にナタで襲われ、1人が命を落とした事件は記憶に新しい。

「個を大事にする教育が進むと、ある面では、他者への理解力が育たないままになってしまう。また、おかしな行動をとる人間がいても、“個人の自由”の範囲内ならば周囲は手を出すことが出来ない。こうした問題に向き合うには、まず自由や人権の意味を今一度考え直す必要がある」(同)

 精神科医の片田珠美氏は、

「今回の容疑者は統合失調症を発病していた可能性があります。統合失調症は、幻覚や妄想などの病的体験が出現して、興奮した時には攻撃的になることもある。また、被害妄想があると、自分がやられるという恐怖や不安が非常に強く、自分を守るためにやり返さなければならないという論理が働いて自分の行動を正当化するのです」

 そう分析するが、精神障害者の移送サービスを手掛けるトキワ精神保健事務所の押川剛氏も、

「今回の日下部容疑者については、明らかに何かしらの治療が必要であると感じます。その症状は、患者を強制的に入院させる措置入院が必要なレベルに達していたかもしれません」

 とした上で、こう語る。

「明らかにおかしな行動をとる人間が周囲にいた場合、近隣住民はまず警察に通報すべきです。大切なのは、そうした異常行動を録画したりして証拠を揃え、警察に提示すること。そうすれば警察がその家を訪問し、保健所に繋ぐなど、対応をしてくれるはずです。一人でやるのが怖いなら、近隣のまとまった人数で団結して訴えると良いでしょう」

 もっとも、集団でやるにしても逆恨みなどが怖くて行動に移せない場合が多いに違いない。

 押川氏はこう訴える。

「多様化した社会の中で、おかしな行動をとる人間の人権も重んじられるようになり、精神科医療に繋ぎにくくなってしまっています。しかし、当事者の権利と同様に、被害者にも人権があることを忘れてはいけない。今は本人の同意が得られなければ医療に繋げなかったりするケースが多いですが、近年、こうした事件が増えていることからも、地域の保健所レベルでの対応に任されている現状を変え、政府が精神福祉医療の指針を示していくべきです」

 自分や家族が今回のような事件に巻き込まれることは絶対にない――そう言い切れない社会に我々は生きている。

週刊新潮 2019年1月17日号掲載

特集「『原宿竹下通り』無差別殺傷計画! 放置したから『元旦テロリスト』に化けたイカレ男の履歴書」より

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