「吉野家」15億円の赤字は“牛丼並盛360円”ビジネスの限界「すき家」も「松屋」も逆風

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薄利多売ビジネスの終焉!?

 Yahoo!ニュースは1月10日、共同通信が配信した「吉野家、15億円の赤字に 原材料価格の高騰や人件費増加で」の記事を掲載した。コメント欄は11日夕方には3400件を超える勢いを見せ、読者の関心の高さが浮き彫りになった。

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 一体、吉野家に何が起きているのか。「吉野家9年ぶり営業赤字 3~11月、人件費が利益圧迫」(日本経済新聞・電子版:1月10日)と、「『値上げはしない』苦境の吉野家が挑む“初めてのマーケティング”」(ITmediaビジネスONLINE:18年12月20日)の両記事は、背景分析に読み応えがある。箇条書きで引用させていただく。

◆売上高は前年同期比2%増の1500億円。「牛すき鍋膳」など単価が高い季節商品が伸び、吉野家の既存店売上高は2.7%増加した(日経)

◆増収の勢いは鈍化。既存店売上高は10月に0.7%減と1年ぶりに減少、11月は3%減とさらに悪化。消費者の節約志向は強い(日経)

◆アルバイトやパート従業員の時給が上昇しており、人件費が含まれる販売費及び一般管理費は968億円と1年前より約41億円増えた(日経)

◆傘下で「ステーキのどん」などを展開するアークミールの不調が響いた(ITmedia)

◆頼みの綱である牛丼チェーンの吉野家は既存店売上高が好調に推移して前年同期比4.7%の増収となったが、営業利益は36.8%減に落ち込んだ。米国産牛肉などの原材料高に加え、採用コストやアルバイトの時給など人件費が高騰したため(ITmedia)

 共同通信の報道に「この間も吉野家に行ったけれど、お客さんはたくさんいた」と違和感を覚えた方も多かったかもしれない。だが、日経やITmediaの記事を読めば、売上は伸びたにもかかわらず、それを上回る人件費の上昇で赤字になったことが分かる。

 吉野家の牛丼は依然として人気だが、構造的な理由から赤字に転落したわけだ。事態の深刻さが伝わってくるが、フードサービス・ジャーナリストの千葉哲幸氏は「薄利多売のビジネスモデルは終焉を迎えている可能性があります」と指摘する。

「まず、吉野家ほどの企業規模になると、アルバイトの時給を20円上げただけでも、人件費で億単位の支出となります。その上で、吉野家における今日の最大の課題は『生産性が上昇できにくい業態』になっていることです。少子化で市場が収縮してしまうと、ワンコイン型のファストフードは成立しにくくなるでしょう」

 吉野家の牛丼は並盛で380円。原価率が極めて高く、薄利多売のビジネスだと誰でも分かる。

 日経は690円の牛すき鍋膳が好調だと報じたが、ITmediaは「コスト高が続く一方で、依然として人気は単価の安い牛丼に集中している」と指摘。記事に登場した吉野家の役員も「380円払う客が一番大事な客。だが、一番うまいのがその並盛という状況を脱却したい」と語っている。客単価を上げるのは吉野家の悲願なのだ。

「高度経済成長期やデフレ経済期なら、“薄利多売”は有効なビジネスモデルの1つでした。それが少子高齢化で『働く人もお客さんも減っていく』時代が到来しました。人件費の上昇で“薄利”が、市場の縮小で“多売”が、厳しくなっていきます。また消費者は、吉野家の牛丼とスーパーの惣菜で価格比較を行います。低価格という優位性においては、ファストフードよりスーパーのほうが勝っています。そのような点から、従来型のファストフードのポジショニングが揺らいできていると言えるでしょう」(同・千葉氏)

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