「マクドナルド」過去最高益を導いた「アルバイト主導」のマーケティング戦略

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「マック」それとも「マクド」? 店名の愛称を選ぶ投票キャンペーンや、12のバーガーからお気に入りを投票する「マクドナルド総選挙」が話題になったファストフード界の雄・マクドナルド。

 2014~2015年には中国メーカーの賞味期限切れ食材使用や中国政府による不衛生な工場の摘発、異物混入事件と相次いで不祥事が発覚し2期連続の赤字となった。しかしその後、冒頭のような徹底したマーケティング戦略でイメージアップを図り業績はV字回復。2017年度には過去最高益を叩き出した。2018年11月には既存店売上高が36カ月連続で前年の同月と比べプラスとなり、2018年度も増収増益の見込みだ。

 ちょっと前まで「もう終わった」かのようにすら言われていたことを考えると、奇跡的な回復に見えるだろうが、実のところ、マクドナルドの歴史を辿ると、こうしたV字回復のストーリーは珍しくない。

 かつてアルバイトから社員となり、「お客様満足度日本一」「従業員満足度日本一」「売り上げ伸び率日本一」を達成した伝説の「マクドナルド最優秀店長」鴨頭(かもがしら)嘉人さんは、著書『マクドナルドで学んだすごいアルバイト育成術』で、自身の経験をもとに知られざる「マクドナルドの強さの秘密」を明かしている。鴨頭さんが店長を務めていた1990年代後半もまた、業績が低迷している時代だった。そこから復活につながる起死回生の戦略は、彼が店長を務める地方の赤字店から始まったというのだ(以下、引用はすべて同書より)。

「ある時、『店長、弘前の主婦の方は何曜日に卵を買うかご存知ですか?』、そう聞かれたのです。

『え? 卵なんて何曜日でも買えるでしょう?』

 僕はこの主婦クルーの方が何を言いたいのか全く理解できませんでした。その主婦クルーの方は構わず続けます。

『実は弘前の主婦は月曜日に卵を買うんです。なぜなら弘前中のスーパーが月曜日に卵の値段を一斉にディスカウントするからなんです』

『う~ん。知らなかった』と僕はただうなるばかりです。

『だから店長! ウチの店の一番人気のテリヤキマックバーガーを月曜日に半額にすれば、弘前中の主婦の方が月曜日はスーパーで卵を買って、マクドナルドでテリヤキマックバーガーを買う習慣がつくんじゃないですか』」

 要するに月曜日にスーパーに殺到する主婦を狙って、イチオシの商品を半額で売れば、結果としてファンが増えるはずだ、という提案。まさに主婦目線の「マーケティング戦略」である。この提案を受け、すぐに鴨頭店長は実行に移す。すると……。

「月曜日の売り上げが……これまでの6倍になったんです!

 これは衝撃でした。僕だって店長ですから、たくさんのキャンペーンの企画を提案してやってみました。でも、全く当たらないんです。でも、クルーの方の提案は見事に的中してセールスをぐいぐい押し上げていくのです!

 そうです、僕はこの店で初めて知ったのです。本当にお客さまの情報を持っているのは、社員である自分より、お客さまと同じ生活をし、お客さまと毎日接しているアルバイト・スタッフさんの方である事を」

 当時、マクドナルドでは通常、1カ月間に打ち出すキャンペーンの数は2、3個だったが、この店舗では1カ月間に約12個のキャンペーンを展開したという。しかし社員は店長の鴨頭さん1人だけで、他の35名は皆アルバイト・スタッフ。このような体制でなぜ月間12個という驚異的なキャンペーンを打つ事ができたのか。さらに詳しくみてみよう。

「あるクルーが良い企画を提案してくれたとします。そうしたら店長である僕の仕事は『いいね! それ、やって!』と伝える事です。するとそのクルーはインフォメーションを出します。

『僕が次のキャンペーンのリーダーになりました。協力してくれる方、大募集です!』

 すると、『僕が発注を見てあげるよ』や『私がPOPの交換をしてあげるわ』といった風に自主的にチームが出来上がり、リーダーがそのチームメンバーの協力のもとそのキャンペーンを運営していきます。

 最後に店長としてやることは、次の月にセールスの分析をしてフィードバックする事です。『君の提案してくれたキャンペーンのおかげで前月のセールスが5%もアップしたよ、ありがとう!』と伝えるだけ。

 つまり『この企画いいね! やってみて!』と『ありがとう!』の二言だけで、あとはスタッフたちがすべて自発的に行ってくれるのです。

 するとどうなるでしょう? 毎月毎月、自ら考え、提案し、運営し、お客さまに喜んでいただき、具体的な成果を生み出し、店舗の売り上げに貢献する、そんな体験をするアルバイト・スタッフが12名も増えていくのです。これでモチベーションがあがらないはずがありません。

 しかも、月間12個もキャンペーンを打っていると、1個か2個はホームラン級のヒットが生まれます。(中略)

『ありがとう! 君の提案してくれたキャンペーンのおかげで、先月のマクドナルドの売り上げが……15億もあがったんだよ!』」

 鴨頭店長の店舗は「全員が店長、全員が経営者」のチームだったというわけだ。アルバイトも社員も関係なく、「モスバーガーに追いつけ、追い越せ」という目標を全員が共有していた。

 オープン当初は大赤字だったこの店舗は黒字転換し、2年間で月商が2・4倍に。鴨頭さんはこの功績をもって全国のマクドナルドで最優秀店長として表彰されたという。

 もちろん、当時と今とではまた別の戦略があるのだろう。現在は、2種類のグラコロバーガー等の期間限定メニューや、夜間限定の増量キャンペーン「夜マック」等、顧客の胃袋とハートをつかんで離さない多彩なマーケティング戦略を展開している。

デイリー新潮編集部

2018年12月26日掲載

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