「間借りカレー」で注目… じわりと増加中「シェア飲食店」の驚くべきメリットとは?

ビジネス2019年1月15日掲載

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 近ごろ、メディアの見出しに踊り、話題となっている「間借りカレー」。これはバーやスナックの昼間の時間帯だけを間借りして営業するカレー屋さんのことだが、実はこうした“シェアスタイル”の飲食店がじわじわと増えているのだ。なぜ今、飲食業界にシェア化の波が押し寄せているのだろうか?

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「シェアスタイルでお店を始めるメリットとしてまず大きいのが、初期費用が安くなることです。例えば、家賃が20万円のケースだと、従来700万円前後かかっていた初期費用が10分の1以下の60万円前後に抑えられます」

 と解説するのは、シェア飲食店向けの物件情報サイト「よじげんスペース」を運営する株式会社よじげん代表・荒木賢二郎氏。オープン時の初期投資額を抑えられ、いつでも撤退可能というリスクヘッジができ、さらにはシェアする店の間で客の往来が増えて売り上げアップ……。シェア飲食店は、一挙両得ならぬ、一挙三得が期待できるという。昨年の9月にサイトを公開したばかり。登録物件数もまだ多くはないが、ビジネスモデルとしては画期的だ。

「もともと私は、バーなどの飲食店の経営をしていたのですが、営業していない時間帯がもったいないので、別の店に貸して売り上げの足しにしたいと思い、不動産屋に相談してみたんです。ところが不動産屋から『それは無断転貸だからダメだ』と怒られてしまいました。調べてみると、民法で『無断転貸の禁止』、つまり貸主に許可なく物件の又貸しをしてはいけないという規定があるんです。だったら、大家の了解を得ればいいだけの話だと思うんですが、不動産業界ではまったく聞き入れてもらえません。不動産屋にとって、店が潰れても別のテナントに物件を紹介できれば改めて仲介手数料が入るので、テナントの収益が改善するような施策を率先してやる発想もないようでした。そこで自分でやってみようと思って立ち上げたのが『よじげんスペース』なのです」

保証金は飲食店開業の高すぎるハードル

 荒木氏は過去、飲食店の経営をしていたことがあったそうだが、そのときのケースでは、東京都心の店舗用物件を借り、礼金として家賃の3カ月分、不動産屋に仲介手数料として1カ月分、連帯保証人が不要になる保証人代行業者に1カ月分、さらに物件の保証金として10カ月分、計15カ月分の家賃を最初に一括で払ったという。

「地方だとそれほどでもありませんが、東京の場合は物件の保証金がべらぼうに高く、飲食店を開業したい人のほとんどはそこで躓きます。『10カ月も家賃を滞納するなんてありえない。滞納するなら、テナントを追い出せばいいじゃないですか』と不動産屋に問い合わせてみたら、日本の法律では物件を貸す側より借りる側の権利のほうが強くて簡単には追い出せないそうなんです。また、賃貸契約の中には通常、『スケルトン条項』と言って、退去する際、内装を解体して原状回復する義務が入っているんですが、夜逃げされた場合は大家がこれを負担しなければなりません。その際、200~300万円ぐらいはかかるから、それを考慮して物件の保証金が設定されているようです。バブル期は30カ月分も取っていたそうですから、不動産屋に言わせれば、『昔よりは安くなった』とのことですが、それでも家賃の10カ月分というのは高いですよね」

 一方、よじげんスペースが徴収する初期費用は、家賃の2・5カ月分のみ。内訳は、サイト利用料として1カ月分、内装利用の礼金として貸す側に1カ月分、保証料として0・5カ月分となる。

 月々の家賃は分配するシステムだ。例えば間借り料が10万円とすると、管理料として2万5千円をよじげんスペースが徴収し、残りの7万5千円のうち物件のオーナーが20%、不動産管理会社が10%、物件を貸す既存店舗が70%をそれぞれ受け取る。

「物件のオーナーへの交渉は弊社で行います。オーナーにも間借り料の一部が分配されるので承諾は得やすいです。レジなどは物件を貸す既存店舗と間借りする人で別々にしたり、看板にはポスターを貼って見せ方を変えるなど、店舗をオープンする際にしなければならないことがいくつかあります。しかし、この点も弊社のほうで“スターターパック”という形で機材を貸し出したり、業者さんを紹介しますので心配ありません。冷蔵庫の共有はOKとNGの店舗がありますが、NGの場合でも、カレー屋など冷蔵庫を使わない業態の店が入れば良いので何の問題もないでしょう」

利用者は3パターン

 では、このサービスを利用するのは、どんな人なのだろうか。

「実際にサービスを開始したところ、借りる人は大まかに言って3つのパターンに分かれます。1つ目は、店舗経営の経験があり、1人で営業できるような10坪ぐらいの小さいお店を探していて、初期費用を抑えたいという人。これが一番多いケースです。2つ目が、店を出した経験のない初心者の人。勤めている飲食店の定休日に自分のカフェをやってみたいというような、どちらかというと自己実現型のケースです。3つ目は、今経営している飲食店が成功し、店をどんどん増やしたい。でも、銀行から借りられる金額に限度があって、間借りでいいから店を増やしたいというケースです。そして今後増えるのではないかと思うのが『ゴーストレストラン』の需要です」

「ゴーストレストラン」とは無店舗型の飲食店のこと。アメリカではニューヨークなどの大都市部で、宅配サービスのウーバーイーツを利用した厨房のみのレストランが増加している。その影響で従来型レストランの売上高が減少し、店舗用物件の賃料も下落に転じるなど社会問題になっているが、いずれにせよ、ゴーストレストランも飲食店のシェア化の流れを加速させることは自明の理だ。

「日本では、こうしたシェアスタイルの飲食店が、まだ普及が進んでいないというのが正直なところで、今後はベンチャーキャピタルからの出資を受けて規模を拡大し、500~600店舗ぐらい掲載して全国をカバーできるようにしたいです」

 今後、飲食店を開業するハードルはますます低くなってくることだろう。「飲食店をやってみたい」と思う人は多いものだが、最初に出すなら、こんなシェアスタイルのお店はどうだろうか。

取材・文/星野陽平

週刊新潮WEB取材班